『リング』(1998年)で日本にJホラーブームを巻き起こした映画監督・中田秀夫。その才能は世界で評価され、『ザ・リング2』(2006年)では、日本人監督による全米映画興行成績1位という快挙を成し遂げた。そんな中田監督の最新作『L change the WorLd』のDVDが6月25日に発売される。大ヒット映画『デスノート』(2006年)から、新たな物語を生み出した「世界の中田」が『L change the WorLd』(2008年)の魅力を語る。
『L change the WorLd』(以下、『L』)は映画『デスノート』2部作のスピンオフ作品だ。すでに完結し、世界観が確立されている『デスノート』。この映画で松山ケンイチが演じる人気キャラクター"L"を主人公に、中田監督は新たな物語を創り上げた。
「今回のLは自立した主役でなければならない」
「『デスノート』でLは、キラを倒すためにデスノートに自分の名前を書いて死を選ぶのですが、死ぬまでの23日間、Lが何をしていたのかは、映画でほとんど描かれていません。オリジナルでLの最期の23日間を描くという企画を、非常に面白いと思い監督を引き受けました。あと、松山ケンイチという俳優に強い関心があったんです。脚本はとても大変な作業だったんですけど、撮影してる時は"あの『デスノート』の外伝だからな"っていうプレッシャーや気負いはなかったですね。ただ完成した映画を宣伝する段階になって、ちょっと自分としても遅れてると思うんですけど、凄いプレッシャーを感じました(笑)」
『L』には、夜神月(藤原竜也)やワタリ(藤村俊二)、死神リューク(声:中村獅童)といった『デスノート』のお馴染みのキャラクターも登場する。しかし、物語自体は完全なオリジナルだ。中田監督は自身の代表作である『リング』(1998年)から、まったく原作とは違うオリジナルの続編『リング2』(1999年)を作ったという過去がある。その時の経験は、今回の『L』にも活きているようだ。
「『L』の映画化は『リング2』の時とちょっと似てるかもしれないですね。『リング2』では、松嶋奈々子さんから中谷美紀さんに主役が変わり、物語も呪いのビデオの話からちょっと横にスライドしています。あと、内容的にも、『L』でノートを、『リング2』でビデオを燃やすとか、妙な一致っていうのはありますね」
今回の『L』では、松山ケンイチ演じるLのキャラクターが、微妙に変化している。それは、Lが自分の死を意識した故と中田監督は語る。
「Lがデスノートに自分の名前を書き込んだことで、残り23日間の命となった。僕はそれを最初に知った時『Lの最後はハートウォーミングな終わり方になるだろうな』と思ったんです。やっぱりLも死ぬ時に『うわぁ、まだ死にたくない』という気持ちなのか、『まぁ短かったけど何かを成し遂げて俺は死ぬんだ』とか、あるエモーションを持って死ぬんだろうと思ったんです。それに向けて、当然、Lにも心境の変化が起こったはずだと思います」
確かに本作のLは、自身の死を強く意識した言動を見せる。『デスノート』2部作では、目的の為に多くの命を犠牲にしてきたLが、「誰ひとり死なせない」ために、文字通り自身の肉体を酷使して最後の瞬間まで奔走する。
「Lは非常に若くして死ぬのですが、この映画でさらにBOY(福田響志)のような若い世代に未来を託します。松山君に最初会った時に『この世には人間社会がある種必然的に持つ、世界を悪くしていく方向みたいな力がある。でも、それをなるべく押しとめて、今より悪くならない世界とか地球を次世代に渡すみたいなことが、今回のテーマなんじゃないか?』と言ったんです。そのテーマに沿うと、今回の映画の中のようなLに自然となっていきました。キラとLの頭脳戦でのLは、感情の表し方を知らないし、非常にクールだけど、ある意味、不器用な男として描かれています。また感情を表に出す必要もなかった。だけど今回のLはそうはいかない。まさに自立した主役でなければいけないし……。原作のコアなファンからどう観られるか賭けではあったんですが、批判があるのも覚悟の上で、今回の『L』を作ったんです」