ムキにならなくても速い。なにより安心

さてワインディングである。いくら実用性が高くても、これが楽しくなければ話にならない。結論から言えば、すばらしくいい。圧倒的な安心感に包まれたまま、ワインディングを駆け抜けることができる。

フェーザーを曲げるのに儀式は要らない。リヤから旋回させなくても、覆い被さった状態でフロントをそちらに向けてやれば曲がっていく。前に乗ったままでかまわない。シートへの荷重を変えるなり、ステップを踏むなり、なんなりすればその方向に曲がっていく。ラクにしていれば曲がろうと考えただけで曲がるんじゃないかと思えるほどだ。

基本は安定指向であり、軽々しさはない。重いクランクが向きを変えていく感じを残したまま穏やかにロールする。これは悪い意味ではなく、どんな場所でも恐くないことを意味する。ハンドルに力を入れそうになると、車体側でいなすような安定性をいつも発揮する。もちろんサスペンションを調整することで、動きをより軽くもできる。セッティングを詰めるまでは走り込んでいないが、とりあえず前後とも伸び側減衰調整を標準から2ノッチ抜いた状態で楽しく走ることができた。

サスペンションがしなやかに動く感じはワインディングでも継続される。当然姿勢変化は大きめだが、ブレーキのタイミングが計れなくなるような暴れ方はしない。安心感のほうがはるかに大きい。よく動くからコーナリング中にもアクセルや荷重に対して正しく反応してくれる。だからコーナリング中にもいかようにもラインが変えられる。そういったしなやかさだ。ラインが変えられるといっても、ドゥカティののようにアウトからイン、インからアウトへと瞬時にラインを変えるような動きではない。荷重のかけ方に正しく比例して行く感じだ。

しなやかだから多少のギャップは恐くない。長いサスペンションの先にあるタイヤがいつも路面をつかんでいる感じが伝わってくる。東京ローカルで申し訳ないが、首都高内回り汐留手前の荒れたS字カーブでも、安定して抜けられることが確認できた。

結局のところフェーザーのおもしろさは、このちょっと高めで自由なポジションから、しなやかな車体を自在に振り回せることにある。高めのポジションのため、コーナーの入口はもちろん、曲がっている最中でも荷重コントロールは容易だ。自分の曲がっていく具合を冷静に判断できる。

コーナリング中、アクセル開けるとサスが沈んでトラクションが上がるのがわかる。さらに荷重を掛けていくとしなるように曲がっていく。荷重をかければかけるほどコーナリングフォースが上がる。旋回性は十分で、レスポンスの遅れも感じない。レプリカにありがちな、マシンが決めたラインを勝手に曲がるようなコーナリングはしない。あくまでライダー優先なのだ。

強いて難点(?)を挙げるなら、あまりにあまりにどんな状況でも応えてくれるため、フェーザーのおいしいポイントを使えてないのではないかという疑心が生まれることぐらいか。普通のバイクでは気持ちよく乗れるポイントがどこかにあるもの。逆にいえば、破綻があるからそれを避けるように操ると、うまく乗れた達成感が感じられる。しかしどんな乗り方をしてもフェーザーは破綻しない。

回転の上がフラットになる特性にももどかしさを感じるかもしれない。4気筒の楽しさのひとつは回転が上がるにつれてパワーが上がっていくこと。これをコーナーの立ち上がりでうまく使うと得もいわれぬ快感がある。もちろんそれを1Lもあるマシン、しかも全開でできるのはサーキットぐらいだから、公道たるワインディングでとやかく言うべきではないが、せっかくの4気筒なのだから……、という思いはある。

左フロントフォーク上部で圧側減衰力調整を行なう。全26段で調整可能

フロント右側は伸び側減衰力。プリロードは全9段で調整できる

リヤプリロードはアジャスターで回して調整。全7段

リヤ伸び側減衰力は全12段で調整できる。圧側の調整機構は装備しない

フロントブレーキレバーは5段階で遠さが調整できる

クラッチレバーの調整はネジで調整。ストッパーを装備するタイプ

これ1台ですべてがまかなえる

まとめよう。FZ1フェーザーは、「オトナのためのベストバランスマシン」である。よく言われるのは、"すばらしくよくできた普通のバイク"というものだが、これは簡単にできることではない。重厚なネイキッドバイクはいざワインディングをその気になって走ろうとすると、重いエンジンに車体がついてこないことがよくあるし、スーパースポーツでは街の中で不安感が付きまとうもの。荷物を積むのも大変だ。フェーザーのどんなシチュエーションでも応えてくれるふところの深さや、安心してワインディングを駆け抜けることができスポーツ性、街乗りでも長距離ツーリングでも疲れないといった汎用性の高さは、フェーザーでしか持ちえないものだ。

フェーザーを自分のマシンとして手に入れたなら、エンジンに手を入れるかもしれない。パワーは十分だが、もう少し高回転で登りつめて行くフィーリングが欲しいと思ったし、そのほうがもっとわかりやすくなると思う。サスペンションやポジションはこのままでいい。これを崩してしまったらフェーザーでなくなるだろう。汎用性を棄てるぐらいなら、最初からYZF-R1を選ぶ。

個人的な望みをいうなら、これを2気筒で作ってもらえないものだろうか。中速域が元気な2気筒でフェーザーを作れば、もっともっと楽しいバイクになると思うのだが。

どんなシチュエーションでも答えてくれるフェーザー

取材の最後にワンカット

撮影:平 雅彦(WINDY Co.) レポート:西尾 淳 (WINDY Co.)