「オトナのバイク」にとって汎用性は非常に重要な要素である。週末のツーリングはもちろん、日常でも使える気安さがほしいし、修理などの維持費も安くしたい。そう考えると、日本の大手メーカー製品はやはり魅力である。そんななか、気になるモデルが登場した。海外向けだったヤマハの「FZ1フェーザー(Fazer)」が国内でも発売されたのだ。このフェーザーに乗ってみることにした。

400/600ccで始まったフェーザーコンセプト

もう10年も前の話、バイク雑誌関係者の間でとても人気の高いバイクがあった。1998年に輸出用として登場したヤマハの「FZS600フェーザー」である。その前年、国内モデルとして「FZ400」が発売されていたが、FZS600はFZ400とほぼ共通のフレームに、よりパワフルな600ccエンジンを搭載したモデルだ。

FZ400も見事なハンドリングだったが、フレームがしっかりしていることもあって、乗り手はいとも簡単にパワーを使い切ってしまう。そのため物足りない感が付きまとっていた。対してFZS600は十分なパワーを備えており、フレームとのバランスはパーフェクトといえるものだった。レーサーレプリカとは違い、ムキになって攻めなくてもワインディングを気持ちよく走ることができる。長時間のライディングでも疲れないポジションや、防風効果の高いハーフカウルなど、どんなシーンでも使える汎用性も備えていた。

FZS600の登場と前後して、もうひとつエポックな出来事があった。あの「YZF-R1」の登場である。"実際の速さとライダーが感じるエキサイトメントの両要素を高次元で調和させた"というYZF-R1は、従来の日本のスポーツバイクとはまるで違う乗り味とハンドリングを見せてくれた。FZS600とYZF-R1に共通項はほとんどないが、YZF-R1を見れば、当時ヤマハ内部でハンドリングなどに対する意識変革が起っていたことが伺える。それはFZS600にも良い影響を与えていたはずだ。

フェーザーの系譜。今回のFZ1フェーザー以前、Fazerは輸出用だった

国内モデルのFZ400。1997年発売

非常にバランスのよかったFZS600フェーザー。1998年モデル

世界中が驚いた初代YZF-R1。1998年モデル

YZF-R1系のエンジンを搭載するFZ1フェーザー

3年後の2001年、「FZS1000フェーザー」が登場する。今回取り上げるFZ1フェーザーの先代モデルだ。YZF-R1系のエンジンを搭載していることもあり、FZS600ほどの気軽さはないが、それでも日常からワインディングまで驚くほど幅広い対応能力を備えていた。FZS600が価格を抑えるためか各部にコストダウンの跡が見られたのに対し、1リッターマシンのFZS1000は前後フルアジャスタブルのサスペンションなど、装備もしっかりとしていた。そしてFZS600ともに、FZS1000はヨーロッパを中心に定番マシンとして人気を得ていった。

2004年にはFZS600が「FZ6-Sフェーザー」へモデルチェンジ。2006年にはFZS1000がFZ1フェーザーへ進化した。この2モデル、2年の差こそあれ、よく似た成り立ちを持っている。どちらもアルミダイキャストフレームを採用し、エンジンをインジェクション化。カウルを持たない「FZ6-N」「FZ1」もそれぞれ用意された。

そして今年(2008年)、過去すべて輸出仕様だった「フェーザー(Fazer)」が初めて国内に向けて提供されることになった。今回のFZ1フェーザーである。もちろん最高出力が下げられて実用域が重視されるなど、日本の状況に合わせてチューニングし直された。しかし、現実性こそがフェーザーの持ち味。決して足を引っ張るようなことはないはずだし、10年前に感激した楽しさや汎用性が現在のフェーザーにも生きていれば、オトナのバイクとして選ぶに値するのではないか。そんなことを考えつつ、車両を借りるべくヤマハに電話を入れた。

YZF-R1エンジンを搭載したFZS1000フェーザー。2001年モデル

FZS600の後継機FZ6-Sフェーザー。2004年モデル

FZ1フェーザーのエンジンは、この2004年モデルYZF-R1と同系

FZS1000の後継機FZ1フェーザー。2006年モデル

今回試乗した国内向けM@FZ1フェーザー。2008年2月28日発売

カウルには大文字でFAZERと表記されているが、輸出用モデルの名称はFazer。ここではフェーザー、もしくはFazerとしている