浦部農園の有機米・雑穀づくりを知るほどに、もっと身近に、近所のスーパーなどで購入したくなる。そこで最後に、通常の流通に乗せない理由について尋ねてみた。消費者とコミュニケーションを取りたいというこだわりなのかと思いきや、答えは「それでは、経営が成り立たないからです」と単純そのもの。農薬と化学肥料を使わない分、経費が浮くというわけではないのだろうか。「有機農業では農薬・化学肥料代を節約できるけれど、かといって資材費がかからないわけではありません。米ぬかやくず大豆、完熟堆肥、海鳥の糞や炭、貝化石などさまざまな有機資材を使いますが、これらがけっこう高いんです。昔は米ぬかや堆肥はただでもらえたんですけどね……」。また、慣行農法(農薬などを使う従来からの農法のこと)で栽培されるコメと同じように、カントリーエレベーター(収穫したコメを乾燥・保管・モミすりする施設)や共同の機械などが使えないため、自前ですべての機械、設備をしなければならず、結局は高くついてしまう環境なのだという。

田植え機に取り付け、田植えとともに雑草よけの米ぬかペレットを田に入れる

苗を育てるための有機JAS規格に適合した有機培土

買い支えてくれた消費者に直接売りたい

さらに、消費者に直接売るのには、別の理由もあるそう。「つくり始めた当初は、慣行農法で栽培した米と一緒に保管できないという理由で、農協が有機米を扱ってくれませんでした。直接売るしかなかったというのが正直なところですが、技術が安定しなかった時代も、天候によって品質が落ちた年にも、変わることなく買い支えて下さった方々がいたからこそ、生き残ることができたのです」。結果的に、直接売ることで生まれるコミュニケーションが苦しいときの原動力になり、販売価格の6~7割が農家の手取りとなって、生産し続けられるだけの収入の確保につながっているという。

つくり方と売り方の両方で独自の方法を築いているからこそ、経営が成り立ち、古代米・雑穀づくりを続けていけるのだ。筆者も、商品のひとつである「彩穀」を購入し、早速白米に混ぜて炊いてみた。炊き上がって土鍋のふたを開けてみると、黒米の色素がまわって全体がうっすらピンク色に染まり、甘くふくよかな香りがふわっと漂った。食べてみると甘みに加え、時折あたる白米とは違う粒を、噛みつぶす歯ごたえが楽しい。安心・安全・健康以前に、ご飯をいつまでも噛んでいたいと思わせる美味しさだった。

浦部さんは有機農法で穀物をつくることを、安心・安全・健康的な食材の生産方法としてだけではなく、農地の生態系を守り、農業に適した環境を保全するために必要な方法だと訴える。作物の安全性や美味しさだけでなく、日本の農業の未来も見据えている浦部真弓さんのお話を聞き、有機農産物の価値の本質を知る思いだった。浦部さんのような仕事人がつくった食べ物を選ぶことは、安全に楽しく食卓を彩るだけでなく、大地に生かされ続けていくために必要な技術なのかもしれない。