有機農業にこだわる理由。それは、真弓さんが32歳でベーチェット病を患った26年前に端を発する。当時は公務員として生活していたが、病状が進んで失明も間近になり、40歳のときにとうとう寝たきりの状態に。退職を余儀なくされたことでマンションのローンが払えなくなり、農業を営むご主人の実家へ移住した。そこで、化学物質過敏症の症状も出ていた真弓さんが食べられる食べ物をつくることを第一の目的に有機農業を始め、さまざまな工夫を積み重ねて現在18年目を迎える。
有機JAS認証を取得していることを示す有機JASマーク |
そうして出来上がった農法は、もともと事務方のプロだった真弓さんが書類処理業務に活躍したこともあり、有機JAS認証を取得済み。2008年度から始まった政府の有機農業総合支援対策でも、地域の有機農業者とともに地域有機農業推進事業団体として認可されている。また、生産の効率化に努めたことで、開始当初は5haが限界だった耕作面積も、15haにまで拡大。現在、夫婦2人と3人の農業研修生に事務作業のアルバイト1人の6人で事業を行うが、それでも収量は足りず、収穫前の予約段階で売切れてしまうという人気ぶりだ。
販売の際には、品目の選び方や食べ方についてのアドバイスもしている。「お客様の体質によっておすすめするお米が違います。たとえば血圧が高くて汗っかきなひとには黒米を、冷え性、花粉症、低血圧といった方には赤米。便秘で肌が荒れている人、ダイエットしたい人には彩穀(赤米・黒米の他雑穀をブレンドしたもの)をすすめます。さらに、効果を実感していただくために、古代米を取り入れるのをきっかけに、基本の食事を、ご飯、味噌汁、旬のお野菜の1汁1菜といったシンプルなものにしていただくようにお願いしています。」
筆者としては彩穀あたりをぜひ試してみたいところだが、その前に一体どんな農法なのかが気になるところ。そこで次項では、浦部農園によるこだわりの農法について紹介しよう。
無農薬・無化学肥料でたくさんつくる工夫
穀物の天敵である雑草に対して除草剤を使わない、与えれば早く大きく育つ化学肥料も使わない。そんな手間のかかる農法でどのようにして、7,500人が1人あたり年間約10,000円分を購入するという需要に応えているのだろうか。
「例えば育苗の方法。浦部農園では、背丈が育っているイネを田んぼに植えるため、浅い育苗箱ではなく深さのあるポットで種もみから苗に育てます。さらに、通常2.5~3葉で田植えをするところを、3.5葉まで育ててから田に移します。ポットで育った苗は根も長く育つため、深く根を張ることができるので、雑草に競り勝つ。だから、雑草が生えにくく、除草剤を使わずに栽培することが可能になります。そのほか除草剤を使わない工夫としては田植え後に、1反(300坪/約992平方メートル)あたり30kgほどの大豆を米ぬかとともに散布し、大豆の酵素であるサポニンの効果で草の芽を出にくくします」(真弓さん)
ポットに種籾をを播く |
大きく育ってから田植え |
また、春に作付けをした米を秋に収穫してすぐに麦を植え、翌年の6月に麦を収穫した後は大豆を植え、大豆の後に米にもどるという2年3作のサイクルで、効率よく生産を行うという工夫もある。これを行うために、麦は小麦よりも1週間早く収穫ができる大麦を選択。たった1週間の違いが、営農計画に大きく影響するのだ。また、大豆には空気中の窒素を土壌に固定する力と、天然の除草剤としての力があることからサイクルに入れているが、85枚ある田んぼのうち、大豆の栽培に適さない湿った田んぼでは2年2作。同じ農園の中でも場所によって異なる自然環境にこまやかに対応しているという。