展示室に囲まれた中庭にある作品も見逃せない。屋外にある作品は、雪が降る冬季には避難するのかと思いきや、自然のままに雪に埋もれ、また春になったら顔を出すと聞いて驚いた。中でも、山極満博の作品「あっちとこっちとそっち」の1つである青いバケツに入ったリスのオブジェは、どんな風に冬を越すのか是非見てみたい。常設作品が中心の同美術館だが、季節や天候、時間の経過によって、作品の見え方の違いを何度も足を運んで鑑賞するのも楽しいだろう。エントランスや中庭だけでなく、休憩スペース、階段室、屋上などのパブリックエリアも含め敷地全体に作品を展開している。そのため、椿昇(日本)の「アッタ」など街路からも作品を楽しむことができる。

山本修路(日本)の「松 其ノ三十二」。官庁街通りと縁の深い「松」をテーマに制作された。さらに庭師の仕事の中で学んだという、自然物を変化させ新たな造形を生み出す日本の伝統的な造園様式に基づいている。Courtesy Rontgenwerke AG、photo by Mami Iwasaki

森北伸(日本)の「フライングマン・アンド・ハンター」。ビルの谷間のような三角形のスリット状の空間に、二体の人物で構成した彫刻作品を設置した。一体は建物の間で手足を突っ張るように広げ、滑稽な姿で空を飛び、もう一方はそうした様子をユーモラスな仕草で橋の上から眺める

展示室に挟まれた中庭で宝探しのように発見して楽しめる、山極満博(日本)の「あっちとこっちとそっち」。小さなスケールだが、どれもがくすっと笑いを誘うユーモアがたっぷり

フェデリコ・エレーロ(コスタリカ)の「ウォール・ペインティング ミラー」。約13mもある3層吹き抜けの階段塔の内部と、そこから続く屋上をアート作品は、下絵はなく即興的に描かれた。その場所ごとに感じたことを色や形で表現するエレーロは、3週間かけて十和田市で感じた印象を絵にしていったという

街路に面して設置された椿昇(日本)の「アッタ」。この彫刻は突然変異的に巨大化した真っ赤なハキリアリ。コスタリカの熱帯雨林に生息し、その攻撃的な風貌からは想像できないが、森の木の葉を切り出し、菌床を作ってキノコを栽培し、それを食する農耕アリ。巨大化したアリは既成概念にしばられ、画一化した現代の消費社会に警笛を鳴らしているという

筆者が1番印象深かったのは、ハンス・オプ・デ・ビークの「ロケーション(5)」。どこか懐かしいようなドライブインのダイナーカフェが再現されており、薄暗いカフェの座席に実際に座ると、窓ガラスの向こうに側には人気のない高速道路の夜景が広がっている。道がどこまでも遠くへ向かっていく様は錯覚なはずなのだが、現実にしか思えない程リアルで困ってしまったほどだ。現代アートは理解が難しいが、いつも表現の無限さを実感させてくれる。

筆者1番のお気に入りだった、ハンス・オプ・デ・ビーク(ベルギー)の「ロケーション(5)」。仕掛けは分かっても、目の前に広がるどこまでも続いている高速道路の様子は実物のようにしか見えなかった。Courtesy of Xavier Hufkens, Brussels、photo by c Studio Hans Op de Beeck