青森県十和田市に4月26日、十和田市現代美術館が開館し、オープンからGW期間中で2万5000人を超える来館者を集めた。世界を舞台に活躍する建築家・西沢立衛氏が設計を手掛けたことでも注目されており、同市の官庁街通り全体を美術館に見立てる構想の一環を実現。国内外で活躍する21人が同美術館のために制作した22作品が、各々独立したパビリオンのように敷地の中に点在させた展示室へ収蔵され、アート作品の"集落"のような美術館が出現した。

4月26日にオープンしたばかりの青森県十和田市の「十和田市現代美術館」。官庁街通りに色々な大きさの箱型の建築が集まった同美術館が仲間入りした

新たな現代アートの発信地となったのは、青森県十和田市。観光地としても有名な十和田市は、2005年度より5年間をかけて、1.1kmのシンボルロード「官庁街通り」全体を美術館と見立て、アート作品、中核施設である十和田市現代美術館、アートプログラムの3つの要素を柱に実施するプロジェクト「Arts Towada」に取り組んでいる。

同美術館は、アートを通した「新しい体験」を提供する場となり、常設展示室、企画展示室、休憩スペース、市民活動スペース、屋外イベントスペースなどの多様な機能を内包。設計者は、金沢21世紀美術館を共同設計した建築家・西沢立衛氏。個々の展示室を「アートのための家」というコンセプトで、それぞれの作品が独立した空間を恒久的に与えられているのが特徴的だ。この分散型の建築構成は、広場と建物が交互に並ぶ官庁街通りの特徴から着想を得ており、建物に大小のボリュームをつくることで、大小の建物が並ぶ通りの景観と連続性を持たせているという。

正面入り口で出迎えてくれたのは、色鮮やかな花模様に身を包んで前足を挙げる馬。常設作品の1つである、チェ・ジョンファ(韓国)による高さ5.5mのモニュメント「フラワー・ホース」だ。官庁街通りは、戦前に旧陸軍軍馬補充部が設置されていたことから「駒街道」という愛称でも市民に親しまれているという十和田市の馬との関わりや、通りを四季折々に彩る花々の存在、そして十和田市の未来の繁栄を象徴しているという。見た目の愛らしさから、子供たちに至る所から携帯電話のカメラなどで記念写真を撮られる"人気者"になっていた。

正面入り口で来館者を歓迎しているようなチェ・ジョンファ(韓国)による「フラワー・ホース」。作品名の通り色とりどりの花模様に包まれた可愛らしい姿に、来館者の記念撮影スポットとしても大人気だった

期待も高まり早速、エントランスへ入ると、こちらも作品の1つ。床一面を覆う作品として、色とりどりのビニールテープで窓枠や角など部屋の各所の形状をなぞってリズミカルにしま模様で構成したジム・ランビー(イギリス)の「ゾボップ」だ。異次元の世界へ入り込んでいくようなデザインは、入り口を彩るのにぴったりだった。

エントランスもアート作品の1つ。ジム・ランビー(イギリス)が「ゾボップ」と題して、床一面を鮮やかなビニールテープでしま模様を構成した

ガラスの渡り廊下を歩き、1つ目の展示室へ。足を踏み入れた瞬間、心臓が縮み上がる。筆者の2倍以上ある身長4mの年老いた女性が待ち構えていたのだ。その正体はロン・ミュエク(オーストラリア)による作品「スタンディング・ウーマン」だ。ふっくらとした肌、しわ、透き通る血管、白髪の一本一本に至るまで、人間と変わらないように見え、彫刻作品だとは到底信じられない。どこまで再現されているのかと、他の来館者と一緒になってスカートの中まで覗いてみた。身体の大きさだけが大胆に違う"人間"を目の前に、自分の方が小さくなってしまったではないかと分からなくなるような不思議な感覚だった。

ロン・ミュエク(オーストラリア)による高さ4mの「スタンディング・ウーマン」。人間そのもののような肌、しわ、髪の毛・などに彫刻作品とは信じがたい。それ故に自分自身の方が小さくなってしまったのではないかという錯覚さえした