VFXを必要に応じて効果的に利用する
50年前の昭和を描くという事で、本作ではVFXが多用されている。演出上の苦労はなかったのだろうか?
「やっぱり舞台経験のある役者さんも沢山いたので、それほど苦労は感じなかったですね。VFXと言っても、何もないブルーバックの前で演技するという感じではなくて、基本的に、周りの背景はある程度出来ていて、その中で一部青くなっているところで演技するという形ですから」
"VFXを多用する映画監督"という印象の強い山崎監督だが、それには異論もあるようだ。
「僕は映せるものは、できるだけ実写で表現したいんですよ。VFXを減らせば減らすほど、ワンカットにかけられる時間が増えていきますから。僕の中では、VFXは削っていきたいんです。『状況的な事も含めて実写での再現が絶対不可能だけど、映画の中では必要』というカットに関しては、VFXを使います。そうでない部分は、出来るだけ実写で撮りたいです」
"VFXにはこだわらない"というフラットな視線を持つ山崎監督。ただし、映画におけるVFXの有効な使い方に関しては、深い知識があるからこそ、強いポリシーを持っているようだ。
「VFXの正しい使い方に関して、僕は凄く敏感です。VFXだらけの映像を、今のお客さんは喜ばないと思うんです。そのことで、ひとつひとつのカットの印象が薄くなるのだったら、凄く危険なことですし……。実写で撮れるものを、徹底的に実写で撮った上で、撮ることの出来ない部分だけをVFXで補完するっていう考え方が、今の21世紀的な考え方だと思うんですよ。昔みたいに『VFX、VFX』って時代は終わり、映画のための凄く有効なツールのひとつとして確立していると思います。今は、数多くの映画でVFXは使われています。電線ひとつ消すだけでも、デジタル処理を行ってますし。もう普通の事なんだと思います」
時間軸の流れの中で描かれる人間ドラマ
そういったVFXの正しい使い方を踏まえて、山崎監督は『ALWAYS』の2作品で人間ドラマを描ききった。その中でも、子供たちの描写は高く評価されている。
「子供を描くのが得意なのは、僕自身、根が子供だからかもしれません(笑)。やっぱり子供が映画の中に登場すると和むんですよね。子供が持つ柔らかさが出ますし、子供が駆け回ってる映画の方が、僕は好きなんです(笑)。でも、必要な題材だから子供を描くのであって、大切なのは、お客さんをどういうとこに連れていきたいかっていう事なんです。とにかく、自分の中ではVFXと同じ位に大事なファクターだと思っています」
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』では、前作同様に懐かしい昭和の風景や、暖かい人々が描かれている。ただ印象としては、前作より現実のシビアな面が色濃く描かれた作品となった。それは「意図的なものだった」と山崎監督は語る。
「現実のシビアな部分は常に意識してます。つまりそれは、前作の昭和33年と今作の昭和34年の違いだと思うんです。昭和33年までは、日本が戦後から立ち上がっていく勢いというか、東京タワーに象徴されるように、『前に行こう!』っていう時代だったような気がするんです。でも、色々な資料を読むにつれ、昭和34年ぐらいから『この勢いでこのまま行ったら、日本はどうなるんだ?』ていう感覚を持つ人々が現れてきた時期だと思うんですよ。『前に行こう!』と言う時代の流れに対して、1回立ち止まってちょっと周りを見回した人たちもいた。それを小日向さん演じる川渕の『この先、日本は変わるぞ』という台詞に託した感じですね」
懐かしい昭和から、ただ明るい成長を遂げて来ただけでない現在の日本。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』で山崎監督は、そんな現在の日本の姿も強く意識して本作を監督した。
「昭和30年代から、遮二無二に行った先にある時代が現在とするならば、その過程で削ぎ落としていってしまった中に大事な物があったんじゃないんかという事に関して、ちゃんと映画の中で伝えていきたいと思っていました。何でも便利とか、簡単とか、かっこいいとか、その方向に、みんなの意識が集中した結果、人間の本質的に大切な物をいくつか取りこぼしていると思うんですよ。だからこういう映画で、失った何か大切なものに気づいてもらえればいいかなって思っています」
『ALWAYS』2作品では、過去から現在という「未来」を見つめた山崎監督。『ジュブナイル』や『リターナー』という作品でも、「未来」がメインテーマとなっている。監督は「未来」に対する強いこだわりがあるようだ。
「未来というか、僕は時間軸というものに強い興味があります。やっぱり小さい頃は、今と今前後のことで精一杯ですよね。でも大人になると、過去の自分も見られる。子供の頃の自分を見られるし、もっと若いときの自分も見られる。そういう時間軸の中に自分が生きてるってことが実感できるようになってくる。今の僕は何か生き方のグラフみたいなものが半分以上出来上がってる状態なんです。この先にどうなっていけばいいのか、なんとなくこうありたいとか、そういう方向性が見えてきているんです。子供の時もタイムマシンが好きだったんですけど、大人になってなおさら、『この時間というものの先にあるものはいったい何なのか?』っていうことを、凄く意識して考えるようにしてます」