日光・月光両菩薩の圧倒的な存在感の陰に隠れてしまいがちだが、この展覧会にはまだまだ素晴らしい薬師寺の寺宝の数々が出品されている。こちらもいずれも貴重なものばかり。これほど一堂に集められるのは滅多にないとのこと。この機会にたっぷりと時間をかけて見ておきたい。会場の順を追って主なものをご紹介しよう。
まずは、会場入口を入って最初のゾーン。場内に薬師寺の鎮守である休ケ岡八幡宮の社殿が再現されている。その中央に展示されているのが、「八幡三神坐像」。平安期に作られた像高33cmほどの3体の木像だ。八幡神を地蔵菩薩や僧侶の姿で表しており、神仏習合時代の名残。それにしても、顔の表情、衣の表現、その巧みさには驚くばかりだ。
同じゾーンには、薬師寺のシンボルともいうべき東塔の水煙がある。水煙とは、塔の屋根の上方に取り付けられる装飾。天平2(730)年に作られたものを、昭和期に模造したものだが、その美しさは本物と変らない。天人が楽器を持ったり、華を手にして飛雲とともに飛翔する姿を目の当たりにすることができる。下から見上げるとあれほどの大きさにしか見えない水煙も、実際はこれほど大きかったのかと、ここでもビックリさせられる。
大講堂にある仏足石もある。石の表面に釈迦の足跡を線刻して表現したものだ。横幅1mを超す大きな礫岩でできている。薬師寺の仏足石は日本では最古のもので仏教の史料としてだけでなく、奈良時代の仏画の史料としても貴重な品だ。
東院堂の本尊・聖観音菩薩立像(しょうかんのんぼさつりゅうぞう)も必見だ。日光・月光の両菩薩像と同時代の作だが、やや作風が異なる。お顔もさほどふくよかではない。腰を捻らず直立した姿勢。腹部もすっきりとして、天衣も左右対称に整えられている。飛鳥時代の表現を強くとどめた作風だ。この菩薩像も、日光・月光菩薩像と同じように、360度背面から見ることができる。
また、「西遊記」の三蔵法師としておなじみの玄奘三蔵の絵や坐像も見逃せない。玄奘三蔵は、慈恩大師とともに、法相宗の大本山である薬師寺にゆかりの深い存在。玄奘に師事した慈恩大師が後に法相宗を確立したためだ。さらに、最後に展示された国宝「吉祥天像」もお見逃しなく。縦53.0×横31.3cmの麻布に煌びやかに彩色された女神像。有名な正倉院の「鳥毛立女図屏風」に描かれた女性とよく似ているが、表情などに和様化が見られるのが特徴だ。暗闇の中で浮び上がる「吉祥天」の姿。その美しさは1300年の時を感じさせない。
日本人の心のふるさとである奈良の、その中心的寺院である薬師寺の歴史と美の真髄が一目でわかるこの展覧会。古き時代のすぐれた美にふれていると、その時代の人々の豊かな心までもが時を経て伝わってくる。悠久の美にふれて、心の潤いを取り戻したひとときだった。
展覧会名 | 国宝 薬師寺展 |
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会期 | 2008年3月25日(火)~6月8日(日) |
会場 | 東京国立博物館・平成館(東京・上野公園) |
開館時間 | 9:30~17:00(ただし、金は20:00、土・日・祝休は18:00まで) |
休館日 | 月曜日(ただし4月28日、5月5日は開館)、5月7日は休館 |
主催 | 東京国立博物館、法相宗大本山薬師寺、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社 |
入場料(当日) | 一般=1,500円/大学生=1,200円/高校生=900円/中学生以下無料 |