奈良からはるばる春の東京へ"ふたり旅"してきた仏さま2体は、会場内の「第一章 薬師寺伽藍を行く」ゾーンの最後のコーナーで待ち受けていた。展覧会では、この出会いがなかなかドラマチックに演出されている。

国宝 月光菩薩立像) (c)飛鳥園

国宝 日光菩薩立像) (c)飛鳥園

まずはゆるやかなスロープを登り一段高くなったところで進路を折り返すと、目の前に日光・月光両菩薩の大きなお顔が現れる。突然の出会いに驚きとともに感動が押し寄せる。ふだんは見上げることしかできない両菩薩だが、ここでは腹部ほどの高さから向き合うようにして拝顔できるのだ。立ち止まって、1体ずつゆっくりとご挨拶。下からはよく見えないお顔や頭部も、はっきりと見える。

さらに進んでスロープを降りていくと、左手に高々とそびえる2体の仏像が見えて来る。大きい! 下から見上げる仏像は、上から見たときより、その大きさが一層際立つ。日光菩薩立像の像高は317.3cm、月光菩薩立像が少し小さく315.3cm。足元に立って見上げると、これほど大きな仏さまだったかと、そのスケールに圧倒される感じだ。奈良時代ののびやかな文化が息づいている。

そして正面から両菩薩にご対面。右が日光菩薩立像、左が月光菩薩立像。本来なら、この間の空間に薬師如来坐像がいらっしゃることになる。両菩薩だけが立つこの風景も、神秘的で威厳に満ちている。両菩薩の姿は、左右対称のように見えながら、微妙に違っているのがわかる。豊かなお顔、ふくよかな身体、まとった天衣の質感や、綿密に刻まれた頭髪など、驚くほど自然で写実的だ。

そのままゆっくりと巡って横位置へ移動する。こんな風に自由な角度から両菩薩を拝見できるのも、この展覧会のうれしいところだ。横一列に並んだ両菩薩の姿、ふだんなら間に坐す薬師如来坐像に遮られて、決して見ることができない2体の姿が見られる。これほど大きな像だが、銅の厚さは均一で、表面も滑らかに仕上げられている。鋳造技術の高さは、驚くほどだ。

並んで立つ日光・月光両菩薩を様々な角度から鑑賞。特に、普段は光背に覆われて決して見ることができない背面は一見の価値あり

さらにそのまま背面へ回る。これこそ、今回の展覧会で実現した初めての試み。菩薩像を背後から見ることができるのだ。初めて見る菩薩像の背面。ふだんは決して見えない場所であるにもかかわらず、驚くほど入念に作られている。一本一本細密に彫り込まれた髪の毛。肩にかかる天衣のやわらかな襞。肉付きの良い背中は、中央が美しく窪んでいる。さらに下がると、美しい襞の折り返しを見せる裙。まるで、背面も見られることを最初から想定して彫られたかのように素晴らしい。

両菩薩像の背後に回って見ることができるのは、この展覧会が初めて

仏像を展示した展覧会では、いつも少々戸惑うものだ。仏さまである仏像を、美術品のようにジロジロと鑑賞してよいものか。だが、この展覧会では、そんな躊躇をすることもなく、純粋に菩薩像の美を堪能したくなる。展示の方法がそうさせてくれるのだろう。美しさを存分に味わったところで、あらためて仏像としての有難さが分かってきた。