最後のコーナーは「Ⅳ ガレと『蜻蛉』」と題され、ガレにとって特別な存在であった「蜻蛉」をモティーフにした作品ばかりを一堂に集めている。

蜻蛉は英語で「ドラゴンフライ」と呼ばれ、元来ヨーロッパでは不吉なもの、気味の悪いものとして忌み嫌われており、芸術の世界に登場してくることはなかった。だが、日本では益虫、勝虫として好まれ、その形が国の形状に似ていることから、日本の国自体を蜻蛉の古称にちなんで「秋津州(あきつしま)」と呼ぶほどだったという。こうしたことから、ジャポニスムの信奉者たちには、蜻蛉が日本の象徴として広まっていったと言われる。

最後のコーナーは、ガレのシンボルである「蜻蛉」の作品ばかりを集めた

ガレが1889年に制作した瓶「蜻蛉・ひとりぼっちの私」という作品は、落下する蜻蛉を瓶の細長い頸にうまくデザインした名品だが、この瓶には「ひとりぼっちのわたし、ひとりぼっちでいたい」との刻文とともに、有名なサイン「うちふるえる蜻蛉を愛する者 これを作る エミール・ガレ ナンシー」がある。蜻蛉に対するガレの思い入れがもっとも強く伝わる作品だ。

羽化すると僅か数時間の命のカゲロウは、ガレが好んだモティーフのひとつ。エミール・ガレ 花器「蜉蝣」 1889-1900 サントリー美術館

このコーナーでは、ガレの家具も見逃せない。巨大な蜻蛉が脚となって盆を支えるテーブル「蜻蛉」や、丸彫りの蜻蛉が支柱となって支える飾り違い棚「蜻蛉」は、その大胆な意匠に驚かされる。一見奇怪にすら思えるこうしたガレの家具は、実際家具として人気があり、多くの注文が寄せられたらしい。

蜻蛉の意匠を巧みに取り入れたガレの家具。手前のテーブルはとくに人気があった

そして、最後に展示されているのが脚付杯「蜻蛉」だ。大理石のようなマーブル・ガラスの表面に、今にも飛び立ちそうな大きな蜻蛉。その背後には、まるでこの蜻蛉の魂かのような影が見られる。この作品は、ガレが入退院をくり返していた最晩年に作られた。いくつか作られたものが"形見"として近親者に譲り渡され、近年までガレの友人の遺族が所有していたが、サントリー美術館が入手した。国内外を含め、今回の展覧会が初公開である。

世界初公開となる脚付杯「蜻蛉」。ガレ最晩年の「形見」ともいうべき貴重な作品だ。エミール・ガレ 脚付杯「蜻蛉」 1903-1904 サントリー美術館

見事な姿をした蜻蛉は、しかしどこか物悲しい。背後には、陽炎のように蜻蛉の魂のような影が覆う。すでに死期を悟っていたはずのガレが、ガラスの中で永遠に生き続けよと、我が身を託したのだろうか。蜻蛉の反対の側面に彫られた「Galle」の文字、よく見ると「G」は蜻蛉を象った飾り文字になっている。「うちふるえる蜻蛉を愛する者」ガレの蜻蛉への思いがここでも伝わってくる。

ガレゆかりの展覧会限定スイーツで一休み

展覧会を見終わった後の心地よいひととき、ガレゆかりのスイーツで一休みはいかがだろう。会場出口を出てすぐ右側にある「shop×café」の「加賀麩 不室屋」では、「ガレとジャポニスム」展開催中、限定スイーツが食べられる。ガレゆかりのナンシー名産の香り高いアーモンドをたっぷり使用したガトー・ショコラに紅茶がついて1,000円。一日20セット限定だ。また18:00以降は、アルコールを注文すると、ガレ展の半券でミックスナッツがついてくる。

会場出口にあるカフェ「加賀麩 不室屋」は慶応元年創業の老舗だ

展覧会限定のスイーツ。ガトーショコラには、ナンシー名産のアーモンドが使われている

展覧会名 ガレとジャポニスム
会期 2008年3月20日(木)~5月11日(日)
会場 サントリー美術館(東京ミッドタウン・ガレリア3階)
開館時間 10:00~18:00(日・月・祝)10:00~20:00(水~土)
休館日 火曜日(ただし4月29日、5月6日は開館)、4月30日、5月7日
主催 サントリー美術館、朝日新聞社
後援 フランス大使館、フランス政府観光局 ※日仏交流150周年事業
協力 日本航空
入場料(当日) 一般=1,300円/大・高生=1,000円/中学生以下無料