次作は浦沢直樹の『20世紀少年』

堤監督は、監督としての自分自身を、どう認識しているのだろうか。

「僕には、たいしたドグマも思い込みもないんです。僕は芸術家じゃないんで(笑)。オーダーを出してくれた方に、作品のクオリティや評価で、どれだけ誠実に答えられるかがテーマです。あと基本的には、自分がどれほど面白がれるかですね。まったく自分の資質から遠いものほど面白いと感じる。『大帝の剣』も『包帯クラブ』もまったく方向性は別だけど、何か1点面白がるポイントが出来ると、パッケージが出来ていくんです。監督する時、まずは1作1作の方向性を見つけます。たとえば『包帯クラブ』なら高崎市という街。『自虐の詩』なら貧乏と笑い。毎回キーコンセプトを見つけると、のめり込んでいきます」

1点の面白いポイントさえ見つければ、どんなジャンルの題材でも料理してしまう堤監督の次回作は2008年より3部作で公開される『20世紀少年』だ。浦沢直樹の同名コミックを、監督はどう面白がり、作り上げていくのだろうか。

「まだ製作スタートしたばかりで、詳しくは話せないのですが、期待していてください。原作を読んだ人は「こう来たか!」と思うはず(笑)。とにかく原作にそっくりです。原作を読みながら観て欲しいぐらい。それプラス映画オリジナルの部分もあります。とにかくめちゃくちゃのめり込んで作っています」

現在は、『20世紀少年』にのめり込んでいる堤監督。今後についても非常に貪欲だ。

「なんでもやりたいですね。テクノロジーの進歩のおかげで、映画でもドラマでもほとんど同じシステムで出来ますから。音楽の仕事をしたくてこの業界にいるんで、PVはオーダーさえあれば、監督していきたいですね。でも、依頼がほとんど来ないんですよ(笑)。佐野元春さんとサザンの桑田圭祐さんは同じ歳なので、ぜひ彼らのPV作りたいんですけどね。オーダーがないんです(笑)」

これからも堤監督はなんでもありの姿勢で、監督を続けたいという。

「まあ、朝は干物、昼はカツ丼、夜は中華やら寿司やら、色々食べる(笑)。映画ってそういうもんだと思うんですよ。ひとつの方向性を決めてそれを死守するという気はさらさらないんです。自分は芸術家じゃないんで、自分がのめり込める作品には、貪欲に取り組んでいきいですね。スポンサーがつかないと映画がヒットしないという最近の傾向は問題あると思いますけど、良い作品、強い作品をみんなが観るという原理原則は変わらない。オーダーがテレビドラマだろうが、映画だろうが、面白いみんなが納得できるものを作る。それだけです」

最後に、監督志望の若者に対して、監督はこんなメッセージを伝えた。

「僕の仕事の数が少なくなるので、やめて欲しい(笑)。まあ、それは冗談で、今は機材が充実していて、ひとりでもすばらしい作品を作れる環境にあるから、チャンスは多いと思う。それとは関係なく、圧倒的な自分の気持ちや想いで作るということが、本来大切なんです。僕自身もまだそこに至るまでに何年もかかる。自分がこれと思うことを、こんな時代だからこそ、とにかくやってみるべきです」

堤幸彦 (つつみゆきひこ)

1955年11月3日生まれ。愛知県出身。B型。法政大学社会学部中退。東放学園卒業後、映画『バカヤロー!』(1988年)で映画初監督。以後、『金田一少年の事件簿』(1995年)、『トリック』(2000年)、『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『世界の中心で、愛を叫ぶ』(2004年)、『明日の記憶』(2006年)、『自虐の詩』(2007年)など多くの映画・ドラマ作品の監督を務める。今年は『20世紀少年』(8月30日)、『まぼろしの邪馬台国』(今秋)、『スシ王子! 銀幕版』(4月19日)がそれぞれ公開予定となっている。

『包帯クラブ』
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(C)2007「包帯クラブ」製作委員会