そこで次はPhenomを最低クロックまで落としてどこまで消費電力を下げられるのかを確認してみた。M3A32-MVP Deluxeではベースクロックの下限が200MHzと定格と同値であるため、クロック倍率の方を定格の11.5倍から下げていく方法をとった。まず、当然のことであるが、クロックが下げればより消費電力は少なくて済む。コア電圧が同じ1.1000Vでも、2.3GHz駆動では149Wだったのだが、ここでクロック倍率を8倍とした1.6GHzにしてみると137Wまで削減できる。さらに、クロックを下げればより低電圧で動作させることが可能となる。

2.3GHzでのコア電圧の下限が1.1000Vに対し、1.6GHzでのコア電圧の下限を調べたところ、1.1000→1.0500……1.0000→0.9500Vとクリアし、0.9250VでPCMark Vantageがエラーを起こし強制終了した。さらに詰めると、今回試したPhenomでは、0.9375Vが安定動作の限界となった。ベンチマーク中、1箇所1.0500V時のメモリスピードにエラーが発生していると思われる箇所があるが、それ以下のコア電圧時にはまた正常に戻っているため、偶発的に発生したものと見られる。これを除けば1.6GHz駆動全域でほぼ一定のスコアだ。

1.6GHz(200MHz×8)・コア電圧0.9375V時

消費電力は、1.1000V時が137Wで、0.9500Vが125W。0.0500V毎に約4~5W程度の削減がみられた。ちなみに2.3GHz定格1.2500Vと1.6GHzの0.9375Vでは40W前後の削減となる。なお、比較として用意したAthlon X2 BE-2400(2.3GHz)の同構成時のピーク消費電力は118Wだった。1.6GHz@0.9375Vの消費電力ピークとの差はわずか6W。Athlon X2 BE-2400のTDPが45Wということから単純に計算すれば、1.6GHz@0.9375Vは50W前後とも見ることができる。一歩及ばないとはいえ、この低電力版CPUとほとんど変わらぬ消費電力にまで下げることを実証できたことは大きな成果ではないだろうか。

CPUコア電圧 1.1000V 1.0500V 1.0000V 0.9500V 0.9375V
PCMark Vantage(PCMarks) 3663 3658 3653 3616 3631
AMD OverDrive(Integer) 8480 8520 8600 8480 8560
AMD OverDrive(Floating Point) 3019 3017 3036 3012 3026
AMD OverDrive(Memory Speed) 1280 720 1330 1410 1320
AMD OverDrive(Cache Speed) 7470 7500 7500 7500 7450
CPUコア電圧 1.1000V 1.0500V 1.0000V 0.9500V 0.9375V
Benchmark実行時の消費電力 137W 132W 128W 125W 124W
※GPUもフルロードするベンチマークでは今回の構成の場合さらに30Wほど消費電力が高くなるので注意

ダウンクロックによって、消費電力面では十分な成果がみられたが、その際のパフォーマンスの低下はどのくらいだろうか。AMD OverDriveのBenchmarkからIntegerを見ると、2.3GHz駆動時のPhenom 9600のスコアが12280であるのに対し、1.6GHz駆動時のスコアは8560と大きく下がっている。クロックを7割に落としているため、スコアも7割という当然の結果だが、ではAthlon X2 BE-2400と比較したらどうだろうか。Athlon X2 BE-2400のIntegerのスコアは6920であり、これと比較すると1.6GHz駆動時のPhenomは124%ほど。最後に、PCMark VantageのPCMarksで比較すると、システム全体で見たパフォーマンスではAthlon X2 BE-2400に対し約1割り増しといったところだ。

このようにパフォーマンス面で低消費電力プロセッサと比較した際、ある程度パフォーマンスアップが図れそうだということはわかった。ただし、Phenomはクアッドコアであるため、シングルスレッドアプリケーションでは1.6GHzというダウンクロックは弱点となるので注意したい。

Phenomは低電力でもおもしろいかも

今回、Black Editionがちょっともったいない気もしたが、これでPhenomの省電力化を試してみた。感触はまずまずといったところだろう。機材の構成がパフォーマンス寄りであるためワットの絶対数表記ではあまりパッとしないのだが、これがグラフィック統合チップセットであるならばさらなる省電力化は可能だろうし、冷却ファンも今回のCPU、GPUおよび12cmファン×4という構成から削減していけばここでも省電力化できる。さらに年間消費電力で見れば、Cool'n'QuietやCoolCoreを有効化したり、Dual Dynamic Power Managementに対応したチップセットを選ぶといったところでも変わってくるだろう。120Wを下回るところまでもっていければ、ACアダプタでクアッドコアというPCも夢ではない。

先日、Phenomの低電力版「Phenom 9000eシリーズ」を投入すると、日本AMDの土居氏が明らかにしている。TDPは65Wとのことで、今回のようなBIOSセッティングに自信の無いユーザーはこちらにも注目したい。当初は同じB2シリコンと思われるが、もしかしたら、こちらではさらなるコア電圧の引き下げが可能かもしれない。