創造性を育む場を青少年から奪うことに
続いて、携帯電話上でゲームサイト「モバゲータウン(モバゲー)」を展開するディー・エヌ・エーの南場氏が、同社に対する総務大臣要請の影響について説明した。南場氏によれば、「総務大臣の要請があって1週間のうちに、1,500億円の株主価値が失われた。また、30%近い海外の株主から苦情が寄せられた」と事業が苦境に陥ったことを吐露。
その理由について、「サイト内にSNSなどのコミュニティ機能があるため、モバゲー全体にフィルタリングがかかってしまう」点を指摘。「15歳~18歳の世代におけるモバゲー利用率は、いずれの年代でも30~50%台と極めて高い。こうした点を考慮し、当社では『健全コミュニティ委員会』を設け、メールアドレスの交換やオフ会(サイト上で知り合った人と実際に会うこと)などを厳しく禁じている。だが、現状のフィルタリングでは、この点は全く考慮されず、何もやってないサイトと一緒に一律的に排除されてしまう」と訴えた。
さらに、「モバゲータウンの中の『クリエイター』のコーナーでは、児童・生徒により、約33万の詩や小説、約1万3,000作品に及ぶ楽曲が作られた」とし、MCFの岸原氏と同様、「フィルタリングにより健全なサイトも閲覧できなくなることで、青少年の創造性を育む場が奪われることになる」と強調した。
政治的状況が総務大臣要請につながった可能性も
南場氏の後、パソコン向けのフィルタリングサービスを提供するデジタルアーツの道具氏が発言した。道具氏は、今回の総務大臣要請の問題点について、「いいサイトも悪いサイトも全部一緒に制限することになる」と指摘。「現在のフィルタリングは、情報を選別しようとするようなイメージがあるが、国や通信事業者はコンテンツの内容に立ち入るべきではない。本来のフィルタリングとは、どういうものは良くてどういうものは悪いかを親が子供と話し合いながら決めるべきものだ。今の携帯フィルタリングが全てではない」と強調した。
その上で、「コンテンツ事業者は、顧客に選ばれるサイトにすることが必要で、国がやることでも通信事業者がやることでもない。フィルタリングメーカーは、そうした健全なサイトを閲覧する場を提供するのが役割だ」と、フィルタリングソフトのメーカーとしての立場から意見を述べた。
道具氏に続いて発言した、慶大DMC機構の菊池氏は、携帯フィルタリングを巡る現在の状況について説明。「右には犯罪を防止しようとする警察、左には表現の自由を重視するコンテンツプロバイダーがあり、その中間の右寄りに保護者、左寄りに通信事業者がいるような状況ではないか。国会でも、違法・有害情報の制限は大きな議論となりつつあるが、ねじれ国会の中で、悪い意味での政党間の競争が起こりつつある。こうした政治状況が、今回の総務大臣要請につながったのではないか」と指摘した。
また、子供にデジタル技術を使ってもらうためのさまざまな活動を行っているNPO法人・CANVASの石戸氏は「現在は、有害サイトなどの存在について子供にどういう対応をしていいか分からない親が多い。学校の先生もできれば蓋をしたい問題ととらえている。今回の総務大臣要請は、そんな状況の中での緊急対応的な側面があったのではないか」と述べた。