天機Online で東南アジア各国に進出
天機Onlineは、2006年10月に開催されたゲーム製品と技術の国際展覧会「4 th China Digital Entertainment Expo & Conference (Chinajoy)」で、最優秀オリジナルオンラインゲーム賞の金賞を受賞した。そのほかにも中国国内でいくつかの賞を受賞している。
気をよくした金氏は、2007年1月以降、天機Onlineにより、タイ、インドネシア、マレーシアの東南アジア3国、また同年4月にはベトナムに進出を果たし、現在は、ヨーロッパ、北米への本格的進出を図っている。営業面でもまずまずで、東南アジアでの収入だけでも1億元(約15億円)、他の地域をプラスすれば数億元になると見込まれている。こうした状況のなかで、ある著名なベンチャーキャピタルの経営者は、渡口網絡の市場価値が少なくとも10億元(約150億円)に達していると評価している。
金氏の出身地である中国中部の浙江省にルーツを持つ浙江商人は、時に「東方のユダヤ」と呼ばれるように、華人世界だけではなく、世界規模で大きな影響力を持っている。著名な経済学者で、改革開放政策のブレーンだった呉敬(※1)氏は、「浙江省は企業家精神を奮い立たせるところで、浙江商人は賢くて苦労をいとわない人材を多く輩出している。しかも冒険精神も旺盛だ」と分析している。
※1 王へんに連
改革開放時代に入ってからだけでも、同省は、中国ソフトドリング最大手、杭州娃娃集団総経理の宗慶後氏、万向集団会長の魯冠球氏、中国初の民間自動車メーカー、吉利控集団会長の李書福氏、上海盛大網絡発展総裁兼CEOの陳天橋氏、前述の馬雲氏ら、そうそうたる企業家を輩出している。金津氏の父、良順氏もその1人だ。
これまでみてきた金氏の創業物語からも、渡口網絡のパンフレットなどにおいて「中国のBlizzard Entertainment(米国の大手ゲーム企業)になろう」と宣言するスタイルからも、冒険精神に富む典型的な浙江商人としての素顔が垣間見える。
チャイニーズドリーム実現の条件は「寛容さ」にあり
また、ビル・ゲイツ氏ら、大学を休学した後IT企業を創業するという成功モデルに似ている点にも、金氏が「若きITエリート」として騒がれる要素がある。つまり中国においては、「チャイニーズドリーム」を実現する夢を若者たちが大いに抱いており、金氏らは、その実現の可能性を彼らに信じさせる役割を果たしているわけである。
では、若くしてチャイニーズドリームを実現する条件、それに必要な環境は何であろうか。筆者は金津氏の成功事例から「寛容」という言葉を連想する。ゲーム好きで、子供や少年時代には勉強にあまり熱心ではなく、大した成績を取れない"ダメなヤツ"。
何とか大学入試の狭き門を通ることはできたが、今度は休学したり退学したりする。オンラインゲームのプレーヤーから作り手への変身という、周りからは無謀で絵に描いた餅にすぎないと思われる起業計画に、どうしても自分の未来を賭けてみたいと考える。このような彼らを受け入れる家族や社会の寛容さがなければ、"夢の種"が育つ機会さえなかったはずだ。
金氏の場合は、資金力がなく、経営経験も浅い自分に、精神面、資金面、経営面で強力なバックアップをしてくれる父、良順氏がいた。オンラインゲーム大手の盛大網絡に買収された、同業の成都錦天科技発展の会長兼社長であった彭海涛氏の場合も似たようなケースであった。
こうした実質的なサポートがなければ、彼らの起業計画は間違いなく単なる夢に終わったことだろう。こうした環境があってはじめて、金氏や彭氏、また、IT情報サイト大手の泡泡網CEOの李想氏、ソフトウェア開発の康盛創想(北京)科技CEOの戴志康氏、ゲームサイト運営の北京時代美兆数字科技総裁の茅侃侃氏ら、数多くの「大学を中退した80後」であるIT起業家と冒険家が誕生しているのだといえる。