これからの作品作り

マイノリティの家族を描くという井筒監督のスタイルは、『パッチギ!』の2作だけでなく、ほとんどの作品に共通している。

「もう、このスタイルは変わらないですね。社会の最小単位は家族だから。社会全体を描くにしても、500万人の姿を描くのではなく、時代に翻弄されている家族を僕はエンタテイメントとして描きますよ。それは昔から変わらない。『宇宙の法則』も『ゲロッパ!』も、言わせてもらえば、『みゆき』だって『二代目はクリスチャン』だって、『岸和田少年愚連隊』だって変わらない。直接の家族でなくても、擬似家族を描いているでしょ」

家族を描き続ける監督には、やはり現代の日本の人々の姿は歪んで映るようだ。

「今回の『パッチギ!』に対する批判で感じたんですが、理解せず、知識もなく、感情だけで批判というか拒絶反応してしまう日本の社会やそこに疑問を感じない人々には、やや危機感もあります。なんていうか、凄く閉塞感を感じますね。若い人にしても、他者を認めないというか、"ノリが違う"、"空気が読めない"なんて理由で、仲間はずれにしたり、拒絶してしまう。排他的なネオコンですよ。個人主義の悪い部分が確立されている」

こういう現代の状況に井筒監督は、どう向き合うつもりなのだろうか。

「家族の物語は沢山描いたんですが、少し気持ちに変化もあるんですよ。人間関係も希薄で、インターネットの書き込みなんかではやたらと攻撃的で、なかなか他者を受け入れない若者。いい加減で希薄な人間関係、迎合主義なヤツらが巻き起こす大騒動みたいなものも、一度やってみたいなと。それこそ冷たい氷の世界みたいな」

もちろん、『パッチギ!』に対する情熱も持ち続けているようだ。

「作りまくってやる」と笑うも、その目には本気の光が

「『パッチギ!』に関しても、まだまだ描き足りないね。知られざる在日の歴史や、日韓・日朝の姿がある。それも、また別の形で描いてみたいね。というか、これだけ批判されるとね。ライフワークになりつつあるしね。反日映画と言われても『パッチギ!』を作りまくってやろうかと思ってますよ(笑)」

最後に監督は、『パッチギ! LOVE&PEACE』を未見の読者にこう語った。

「1作目以上に2作目は、単なる青春映画でなく、重厚なエンタテイメントになっているので、その重厚さを楽しんでください。絶望的な現実も描かれていますが、絶望こそ力なりという事が、力強く実感できる作品だと思います」

これからの『パッチギ!』シリーズに関する抱負や、これまでの井筒作品にない野心作の構想まで語ってくれた井筒監督。厳しい眼で社会の変遷を見つめつつ、同時に優しい眼差しで人を見つめて映画を作り続けている。30年以上のキャリアを持ちながら、その映画に対する情熱は尽きることない。

DVD『パッチギ! LOVE&PEACE』はハピネットより10月26日発売

(C)2007『パッチギ! LOVE&PEACE』パートナーズ

インタビュー撮影 : 広路和夫