--ユーザーからは品質の評価が高いようですが、具体的に他社とはここが違うといった工夫をされている点などありますか?

ノートPCの設計は、「こだわり」と「割り切り」のせめぎ合い……

まずは購買のプロセスですね。他社ではコスト的な理由からOEM/ODMを積極的に活用されていますが、当社ではOEM/ODM利用時にもIBM時代から培い続けているノウハウを共有することにより、ひとつひとつの部品の設計から量産までを一貫して管理することで品質を向上させています。

また、定評がある「壊れにくさ」についてですが、これは特にThinkPadで重視している点です。ThinkPadはビジネスツールであるという見地から「ユーザーのビジネスを止めない」という思想で設計を行っています。それはつまり、取り替え可能な各パーツの耐久性が高いというよりもむしろ、取り替えがきかないユーザーの知的資産、すなわちハードディスクを守るということであり、万が一故障した場合でもなるべく早く復旧させるということです。その課題に対する答えがバックアップ・復旧ツール「ThinkVantage Rescue and Recovery」の提供であり、土・日も受付を行っているコールセンターの体制なのです。

当社は、PCに関してプロフェッショナルではないユーザーでもわずらわしさを感じることなくPCをビジネスに活用してもらえるようサポートすることが使命だと考えています。具体例を挙げると、長時間打鍵しても疲れにくいキーボードを搭載することにくわえ、デスクトップとノートPCが混在する環境でもストレスを感じることなくPCを利用できるよう、デスクトップとノートPCで同じキー配列を採用しています。目の前のコストや軽さを追い求めることはせず、このようなデザイン面も含めてトータルに一貫した思想を貫くよう心がけています。

--ノートPCの話ですと、最近街でPanasonicの「Let's Note」シリーズなど軽量・長寿命バッテリを売りとする小型モバイルが使われているのをよく見かけます。通信インフラが劇的に整ったこともあり、数年前と小型モバイルに対するユーザーの嗜好性や意識が大きく変化していますが、今後の小型モバイルの開発計画はどのようになっていますか。

そういった世の中の流れに沿った製品の開発を行うため、アメリカのThinkPad統括部門に対してバッテリの長寿命化、軽量化を強く訴えかけると共に大和研究所でも研究を重ねています。しかし、これまで述べてきたThinkPadの基本思想は守られなければならないと思っています。

ノートPCの設計は、「こだわり」と「割り切り」のせめぎ合いです。最終的に作られた製品によってユーザーにどのような価値を提供したいか、が何にこだわり、何を割り切るかの分岐点となります。だからこそ、ThinkPadはThinkPadのやり方で材料の検討やソフトウェア、さまざまな技術などを駆使して軽量化・バッテリの長寿命化を追求していきます。

--コンパクトさとデザイン、無線LAN内蔵という機能のバランスのよさから現在でも根強い支持を受けている「ThinkPad s30」のような小型モバイルPCや、モバイルインターネットデバイス(MID)のリリースの予定はありますか?

いまだにファンの多い「ThinkPad s30」

当社は、ThinkPad s30だけでなく、プリンターを内蔵した「ThinkPad 550BJ」や折りたたみ式フルサイズキーボード、通称「バタフライキーボード」を搭載した10.4型の「ThinkPad 701C」、ワイヤレスWANを内蔵した「ThinkPad X61」といった、「とんがった」製品を多く世に送り出しているイメージがあることは理解しています。しかし、これらの製品は奇をてらったわけではなく、たとえば、まだビジネスにおいて紙でのやりとりが主流だった1993年に発売されたThinkPad 550BJでは、出張先で書類を作成してその場でプリントアウトして配布できればよりビジネスが円滑に行えるのではないか、という新たな価値を形にしたものです。同様にThinkPad 701Cでは使いやすさや操作性、ThinkPad s30ではモビリティやインターネットへの接続性とその時代に合わせた機能を盛り込んでいます。今後も、ワークスタイルの変革に合わせたアグレッシブなThinkPadをリリースしていきます。

プリンター内蔵の「ThinkPad 550BJ」

ワイヤレスWAN内蔵の「ThinkPad X61」

また、コンシューマーをターゲットにしたモバイルインターネットデバイスについてですが、実は中国ではすでに製品展開が行われています。当社としてもぜひ参入したい分野ではあるのですが、現在コンシューマー向けの製品展開を行っていない日本市場では、ブランドイメージやユーザーが当社に寄せる期待値、パートナー企業との関係などを考慮した上で慎重に製品投入の時期を見定める必要があります。