今秋この新パネル「D7」C2Fineを採用したプロジェクターは、セイコーエプソン「EMP-TW2000」、松下電器産業「TH-AE2000」、三洋電機「LP-Z2000」の3モデルである。期せずして「2000」版トリオになった。前作はもちろん「1000」版だが、実は三洋電機のみフルHD版モデルを発売していなかったので(LP-Z5を720モデルとして投入)、これが初めてのフルHDモデルである。なおセイコーエプソンの前年モデルはEMP-TW1000、松下電器産業の前年モデルはTH-AE1000である。
今回は三洋電機を除き、その1000版ベースの製品となっているのが大きな特徴だ。EMP-TW1000、TH-AE1000とも外観を見る通り形からはまったく見分けがつかないほどである(デザイン上、色合い、細部の仕上げなどが変わった程度)。逆に言えば、コストの掛かるケースにお金を掛けるより、内部に、つまり画質性能のアップにお金を掛けたということになる。
では、画質、性能面での特徴を1機種ずつ見ていこう。
EMP-TW2000では新パネルに合わせハイコントラスト化を徹底させている。新開発「Deep Black」と呼ぶ光学機構を採用、位相補償フィルターを投入し漏れ光対策を徹底、いわゆる黒浮きを極限まで抑えたのが特徴だ。これによりホームシアター液晶プロジェクターとして最高のハイコントラスト値「50000:1」をカタログ表記させた。
また、パネルの12ビット化とHDMI 1.3a端子の装備により高画質化を図り、xvColor対応、24p表示対応、さらに3次元6軸カラーマネージメント化を図ってきた。なお騒音対策も図り、24dBと前作より2dBダウンさせ静かさを確保している。
TH-AE2000は、特徴となっている「ハリウッド画質」を、新パネルに合わせさらに磨きをかけてきた。評価の高い「ダイナミックアイリス」、それに「スムーススクリーン」技術も新フルHDパネルに合わせ再構築、さらに1.3a対応のHDMI端子の装備、16000:1のハイコントラスト化と深みのある階調表現と色再現性、それにS/N比の良さを確保してきた。新パネルに合わせ込んだ映像エンジンは、シーン毎の周波数分析から高、中、低域成分をみて適したエンハンサー処理を行ったディテールクラリティブプロセッサー、最大16ビット信号処理など、細かな見直しが行われ、画質に貢献している。
機能面では「波形モニター」を新しくし、黒レベル、白レベルの自動調整機能、さらに2画面調整機能の搭載で、画質の調整がしやすくなるなど、使い勝手面での改善も目玉になっている。
画質性能だけでなく、扱い易さにも配慮しているのが松下電器産業らしいところで、誰でも高画質さを楽しめるというコンセプトが生かされている。
LP-Z2000は比較のモデルがないので新機軸を紹介するが、720シリーズで展開してきた「Z」をフルHD版にしたのが大きな特徴だ。もちろんパネルは「D7」C2Fine。このパネル資源を最大限発揮させるべく、フルHD版の光学レンズを新採用。合わせてバリアブルアイリス機構の再設計、そしてフルHD版にしながらも特徴的な上下左右のレンズシフト機能の装備と画質と使い勝手の両面で攻めたのがZ2000である。
この製品もコントラスト比15000:1を表記するほか、新3DカラーマネージメントによりRGBの原色空間で処理させ、720のZ5比約1100倍もの高性能さで色調整が可能とマニアックな画質調整力を持つ。
外観はZ5を踏襲するので変化が少ないものの、フルHD版らしく大型化しながらも優れたデザイン力でスマートに収まっているのも特徴である。HDMI端子はもちろんDeep Color対応の1.3a。騒音対策も入念に施しており、カタログで示された動作音の19dBはトップクラスだ。
各モデルの絵の傾向
はじめにEMP-TW2000の画質から紹介しよう。EMP-TW2000の画質は、前作と比べ大幅にグレードアップしている。前作は良く言えば素直さが特徴だったが、今回はそれにプラスして説得力を備えている。魅力的な画質と言ってもおかしくない。ソースが本来持っている魅力的な映像に迫れる、と表現できるほどの優れた出来映えである。
オーソドックスに作ってもある程度までは形にはなるのだが、本当のシアター画質はその先にあるもので、これにどう取り込むか、魅力的な画質に仕上げるかは、本質的な映像の美しさを知っているかどうかに掛かってくるものだ。例えば、黒側(暗部)の階調表現性であっても、色の深みであっても、それらが光の艶で出来上がっていることを認識するかどうかがポイントだ。さまざまな映像ソフトを視聴しながら何度も微調整を繰り返さなければ到達しない領域なのだが、このEMP-TW2000はついにそれをモノにしたのである。
技術面で言えば、微妙なガンマカーブの設定、それに光学絞りの加減、さらにわずかな区別も見のがさない色合い、などを決める作業を行ったと言えるだろう。そう言う意味でこのEMP-TW2000は、いよいよ感動を表現する世界に踏み込んだと評価できる同社初のモデルなのである。
そしてTH-AE2000は、もちろんハリウッド画質である「シネマ1」モードが代表作である。ダイナミックアイリスを使用したマニアックな画質表現性を備えたモードだが、前作のTH-AE1000と比較すると、ノイズ感が大幅に改善され、より微妙な質感表現性が備わってきた。面積の大きい色部分、背景にあるグレー領域などで、それが差として引き立ち、新パネル+映像エンジンの見直しの効果が大きいと感じた。
さらにダイナミックアイリス自体も改善されているのが分かる。液晶モデルで課題とされてきた中間輝度(階調)の表現力が大幅に向上したことで、ソフトが持っている豊富な情報がよりよりダイレクトに伝わるようになった。TH-AE1000ではもどかしかった暗いシーンの情報欠如感が収まり、微妙な映画表現性を備えるように変わった、それがTH-AE2000なのである。また1つ上のハリウッド画質を獲得したと言えるだろう。
LP-Z2000の画質も期待を裏切らないで出来映えである。特徴的なのは、豊かな色再現性、またそこには綺麗な色合いの加味、これはややもすると個性的なのだが、他のモデルでは得られない美しい色の世界を表現して見せるものだ。
どこにこの要素があるのか考えてみると、Zシリーズ歴代で培われた伝統にあるように思える。見映えを求めながら、あまり個性的に振られず、さらにテレビ的なハイトーンが強まった堅めな画質にならないような丁寧さ、これがLP-Z2000で結実したのである。かなりのベテランが画作りに責任も持たないと到達しないと思うが、ホームシアター用ならこんな質感表現性にこんな色合いが好ましいという、まさに確固たる信念の積み重ねであろうと思う。
今秋のフルHD液晶プロジェクターのリファレンスモデルに上げても良いほど完成度の高い画質であり、初めてフルHD版を手掛けたとは思えない出来映えには感動を覚えるほどである。