BMWといえば水平対向2気筒、通称"ボクサー"エンジンを搭載する「R」シリーズが有名だが、一方で、エントリー向けとして650cc単気筒エンジンを搭載する「F650」もロングセラーを誇っている。今回取り上げる「F800」はこの中間に位置するモデルとなる。ちなみに、これら以外にも並列4気筒エンジンを搭載する「K」シリーズ、本格的なエンデューロモデルとして開発され、バリエーションを増やした「G650」シリーズなど、BMWモーターサイクルのラインナップは急激に拡大している。また、「R」「K」シリーズは、現在ではすべて1200ccの大排気量となった。

F800に搭載されるのは、BMWが開発し、ロータックス社で生産されるパラレルツイン(並列2気筒)の800ccエンジン。2本のカムシャフトで各気筒4個のバルブを駆動する。パラレルツインは珍しいものではないが、ユニークなのはスイング運動するコンロッド式のバランサーを使用していること。これは文章ではとても説明しづらいので、下の写真を見てもらうのがいいだろう。このコンロッドによって一次/二次慣性質量を打ち消し、滑らかな特性を得ているという。

フレームは、エンジンをフレームの一部として使用するアルミ製のブリッジタイプ。F650と同じく、ガソリンタンクをシート下に置く。ガソリン量による重心の変化が少ないという特長がある。通常ガソリンタンクがある場所には、大容量のエアクリーナーが収まっている。リヤスイングアームは片持ち式。リンク類は使用していない。後輪の駆動はベルトドライブ方式だ。フロントフォークも一般的なテレスコピック式を採用している。

F800のアウトラインはざっとこんなところ。「R」や「K」シリーズが後輪駆動にシャフトドライブを採用したり、フロントフォークに「テレレバー」や「デュオレバー」といった独創的な機構を盛り込んでいるのに比べると、F800の構成は驚くほどあっさりしている。前後輪を同時に制動する「インテグラルブレーキ」も装備していない。このあたり、凝った機構がないことを寂しいと思うかもしれない。しかし逆に、普通さを"大人っぽい"と捉えることもできる。最新テクノロジーを知りつくしたBMWがコンベンショナルな機構をチューニングするのだから、その仕上がりはとても気になるところだ。

F800にはスポーツ指向の「F800S」とツーリング指向の「F800ST」の2モデルが用意されている。ハーフカウルとフルカウル、ハンドルバーの高さ、リアのグラブバーとキャリアなど見た目での違いは多いが、車体やエンジンはまったく同じ。63kW(85ps)/8,000rpmの最高出力も変わらない。カウルやキャリアのぶん、車重はF800STのほうが5kg重い(乾燥重量/S:182kg、ST:187kg)。どちらにするか悩んだが、ポジションの前傾がキツくないハンドル高、汎用性の高さなどを考えてF800STをチョイスした。さあ、どうだろうか。

F800のエンジン。下にバランサーをもつためか、縦に長い印象

F800のエンジン背面。かなり細身の印象だ

エンジン内部の構成。ボア×ストロークは82.0×75.6mm

クランクの下にあるのがコンロッド式のバランサー。これで振動を消す

片持ち式のスイングアーム。剛性は高そう

ドライブトレイン。スイングアームはエンジンにマウントされる

燃料タンクはシートの下に収まる

カウルはボリュームがあるが、ライダーが乗る部分はとてもスマート

エンジンも剛性材として使用するため、フレームはシンプル

F800STのストリップ。通常のタンク位置にはエアクリーナーボックス