クレッセントブース~死角無しのHMDが登場!!
バーチャルリアリティに欠かせないアイテムといえばやはり「HMD」(Head Mounted Display)だ。頭部に装着し、目線の前にディスプレイを配するHMDは、ある意味、「究極のパーソナルディスプレイ」ということができ、「視界の再現」という映像機器の究極のテーマを実現するにあたっては最も理想的な形態といえるかもしれない。しかし、HMDには、1つだけ、絶対的な弱点があった。
それは視界の狭さ。
HMDは映像が表示される部分が狭く、どうしても窓枠から映像を見ている感じになりやすい。例えば民生向けHMDとして有名なオリンパスのEYE TREK(FMD-220)の視界(画角)は水平30度、垂直22.7度であった。「2メートル先の52インチ画面相当」という触れ込みはあったが、実際には視界のごく限られた領域に矩形の映像が表示されているというのを実感するのみであった。
クレッセントが開発したVirtual-Eye「HEWDD-768」は、これまでのHMDの常識を打ち破り、垂直(上下)±96°、水平(左右)120°の超広画角を実現した世界初のHMDだ。この広画角は「何メートル先の何インチ相当」という視界ではなく、人間の眼球が前方を見たときに一度に見ることのできる視界をカバーできている表示になる。
両目、それぞれに独立したフレームを見せられる設計となっており、片目あたりの解像度は1280×768ドット(アスペクト比は16:9ではなく15:9)。
表示に用いている映像パネルは反射型液晶パネルのLCOS(Liquid Crystal on Silicon)パネルを採用。LCOSパネルはビクターのD-ILAタイプを採用している。
映像は液晶ディスプレイパネルではなく、LCOSパネルを使用したプロジェクション方式となっているのも特徴。プロジェクション方式を採用した理由として「投射映像がRGBのサブピクセルが分離せず、1ピクセルそのものが目的の色を発色させられる」ということを担当者は述べていた。
プロジェクション・コアはHMD内部に搭載されるが、光源ユニットは熱を持ちすぎるために、HMDには内蔵させておらず、分離されて別装置として提供される。別ユニットからの光源からの光は光ファイバによってHMDへ供給される。光源ランプは超高圧水銀系ランプでプロジェクタ機器で一般的に用いられているものと同じ。初期設計段階では小型のLED光源をHMDに内蔵させる案も検討したとのことだが、発熱と排熱の問題から今世代機では光源ユニットを別体とする案を採用したとのこと。現在は電源線や映像線、光源供給用の光ファイバまでがHMDI接続されているため見た目的には不格好だ。ちなみに、担当者は「将来的にはワイヤレスを実現したい」と述べていた。
HMD本体の重さは2.4kg。映像入力はアナログRGBに対応し、左用、右用の2系統のDSUB15ピン端子を実装している。
デモンストレーションではVICONの光学式モーションキャプチャ・システムを組み合わせ、被験者の頭部や手の動きを検出し、被験者の頭部の動きにシンクロして全方位の立体映像を見せていた。
手や指の動きを検出できるシステムと組み合わせ、表示している立体映像の中に、CG化された被験者の手も表示させており、バーチャルな車の運転席に座って、車内をあちこちと見渡したり、手を伸ばして車内のインテリアのアクセシビリティを確認したりすることができるようになっていた。
こうしたバーチャルリアリティ(VR)は映画の世界のようなイメージがあるが、実際には、車メーカーや航空機の設計現場では導入されており、デザイン検討段階で実際にどういう機能性を提供できるかの検証に使われているとのこと。このHEWDD-768も、そうしたVRシステムを実用化している企業からの引き合いが多いとのことだ。
価格は840万円から。オプションとして、CATIA、MAYA等の3D-CADや3Dグラフィックス制作ソフトなどと連動して、簡単にHEWDD-768で立体視を実現できるサポートソフトウェア「EasyVR」も設定されている。
実際に体験してみたが、3Dグラフィックスを立体視で、しかも視界のほぼ全域に映像が表示されている様は圧巻。モーションキャプチャ・システムと連動させていたため、首を回したり傾けるとその方向の映像がちゃんと見ることができ、これも感動的であった。
視界は確かに広くて凄いのだが、映像はやや暗めな印象が。これは別ユニットから光ファイバーで光源を導く構造から来る制約なのかもしれない。