コンピュータグラフィックス、バーチャルリアリティ、インタラクティブ技術の学会であるSIGGRAPHは、年々規模が拡大され、いまやコンベンション、あるいはトレードショー的な商業的な側面も持ち始めている。

一般的な研究者の論文発表以外に、企業側の新製品の機能レクチャーなどが行われるのはもちろん、協賛企業が集まり、「Exhbition」と命名された、なかなかに大きい展示会場も設営される。このExhbition、すなわち一般展示会場は年々巨大化する傾向にあり、SIGGRAPH 2007での出展企業は230以上と発表されている。

EMERGING TECHNOLOGIESでの展示は、次世代製品に活用されるであろう新技術展示の様相を呈しているが、こちら、Exhibitionの展示は、実際に販売される(含む販売中)製品の展示になっている点が特徴だ。

今年も、一般的なIT関連のトレードショーではなかなかお目にかかれないユニークな製品が多数展示されたので、興味深いものをピックアップして紹介していきたい。

Field Emission Technologies(FET)ブース~SEDに取って代わる? 新薄型ディスプレイパネル「FED」を展示

ソニー系列のField Emission Technologies(FET)は、現在実用化を進めている新しいフラットパネルディスプレイ「FED」(Field Emission Display)の展示を行っていた。

FEDの動作原理は、簡単にいうならば、RGB(赤、緑、青)の超小型ブラウン管をサブピクセルとして解像度分配置させたディスプレイだ。サブピクセル単位のセルの中に超小型の電子銃とそれに相対した表示面側に蛍光体を配置し、電子銃から撃ち出された電子が蛍光体を励起して発光する。

Field Emission Technologies(FET)ブース

プラズマのように時間積分的な明滅で階調や色を作り出すのではなく、アナログ的な強弱で作り出せるために、色割れや疑似輪郭が起きない自然な発色と階調が得られる。

そして液晶のように常時発光している光源からの光を制御するのではなく、ブラウン管と同じ超単残光のインパルス表示が出来るために動画性能は全くブラウン管と同じにできる。

ここまで聞いて、映像機器好きな読者ならば「SED(Surface-Conduction Electron-Emitter Display)と同じではないか」と思うかもしれないが、その指摘は鋭い。

実際、基本原理はSEDとほぼ同じ。というよりも、FEDは30年ほど前に考案された基本概念であり、SEDはいうなればキヤノン/東芝が実現したFEDということになる。

FEDの模式概念図

SEDは残念ながら特許問題訴訟で未だ係争中で、東芝が予定していた製造工場も白紙となり、事実上、SEDの登場は無期延期となってしまった。なお、FEDは、一連のSED訴訟で基本特許を押さえているとされるNano-Proprietaryの特許に抵触しない方式で実現しているとされ、今のところ「問題はない」(担当者)という判断をしているという。

SEDとFEDとの違いは様々な部分に及ぶが、もっとも分かりやすい相違点は、電子を打ち出す超小型電子銃のカソードの形状とレイアウトにある。

FEDのマイクロ電子銃の概念図

FEDのカソードはスピント(Spindt)と呼ばれる円錐型をしており、ゲート電極に電圧を掛けるとこの円錐の先端に高電荷がかかりトンネル効果によって電子が飛び出させることができる。これは1個では相対する蛍光体の画素を十分な明るさで発光させるには不十分なため、FEDではサブピクセル中になんと4000~5000個のスピントを形成させている。

このカソードの個数が圧倒的に多いのがSEDとの異なる点だ。

円錐型のスピントはサブピクセルあたり1個や2個ではなく数千個を形成

スピントの直径は約120nm。スピントのピッチは全くランダムだそうで、形成されたスピントのいくつかは機能できず死んでいる場合もあるそうだが、なにしろ個数が多いので、数個死んでいるだけでは不良画素にならない。歩留まりの観点からもこの方式は優位なのだという。