iPhoneが搭載しているSafariブラウザはパソコン版と同じエンジンを備えている。モバイル用サイトだけではなく、通常のWebサイトをパソコン同様に表示できる。
モバイル機器で通常のWebページを表示する場合、問題になるのは小さなディスプレイサイズだ。通常のWebページはパソコンの大きな画面を想定してデザインされている。モバイルノートPCで開いても読みづらい時があるのに、モバイル機器の小さな画面では内容を読み取れない。拡大すれば、一行を読むのに横スクロールを何度も繰り返すことになってしまう。そのためモバイル用Webページが利用されてきたが、情報やサービスの乏しさは否めない。パソコンと同じ環境をモバイル機器でも実現しようという流れの中で、モバイル機器で通常のWebページを利用可能にする方法に目が向けられている。
例えばOperaのスモール・スクリーン・レンダリングは、通常のWebページを小型デバイス向けに再フォーマットする。Microsoftが開発中のモバイル端末用ブラウザ「Deepfish」は、パソコン向けWebサイトのレイアウトを崩さずに全体表示し、ユーザーが指定した部分だけが転送されて拡大表示される。
iPhoneのアプローチはDeepfishに近い。Webページを開くと、まず画面の横幅に合わせて全体的に縮小表示される。この状態では、どこに何があるかを想像できる程度で、文章の中身までは読み取れない。Deepfish同様に読みたいところを指定して拡大するのだが、そこでiPhoneではタッチ操作が大活躍する。ディスプレイにあてた指をずらしてスクロールし、ダブルタップまたは2本指操作で拡大・縮小する。この動きが実にスムースなのだ。十字キーやジョイスティックを使う従来のモバイル機器では、たどたどしい動きにいらいらさせられたが、iPhoneの操作は滑らか。Google Mapsに初めてさわった時に、再読込なしで地図を移動できる便利さに感動したのを思い出した。
拡大・縮小にダブルタップと2本指操作のどちらを使うか……というと、最初は動きが面白くて2本指操作ばかりを使っていた。指の開閉具合で拡大・縮小を自分の好きなところで止められるというメリットもある。ところが最近ではダブルタップを好んで使っている。ダブルタップの拡大・縮小は一定の比率だと思っていたのだが、実は自動的に細かな調整が行われる。例えば[div]タグで囲まれている部分をダブルタップすると、その部分がきっちりと画面に収まる。入力ボックスに狙ってダブルタップすれば、入力ボックスが横幅ぴったりに拡大される。ただ、時々ダブルタップするつもりで、リンクをタップしてしまい、違うWebページのロードが始まってしまうこともある……。
パソコン版のSafariと同じエンジンを搭載しているとはいえ、パソコンとまったく同じWeb体験を楽しめるわけではない。すでに様々なところで指摘されてご存知の方も多いと思うが、iPhoneのSafariはFlashをサポートしていない。JavaScript、Java、ストリーミングメディアのサポートなども不十分で、いわゆるWeb 2.0世代と呼ばれるWebサイトを満足に利用できない。では、リッチなWeb体験ができないかというと、Webサイトに埋め込まれたQuickTimeムービーはとてもリッチに動作する。Webサイト内ではQuickTimeムービーを現す画像の上に再生ボタンが配置され、それをタップするとフル画面で再生が始まる。しかも縦・横の切り換えも可能なのだ (ビデオ再生は基本的にランドスケープ表示)。
パソコン版と同様の表現が可能なのに、なぜ不便な部分が残されているのか?
頭をよぎったのはiPhone用のWebアプリだ。iPhoneは標準で、Google Mapsを使うための専用アプリMapsを備えている。これは実用的であるのと同時に、iPhone用のWebアプリの好サンプルとなっている。iPhoneのSafariでGoogle Mapsを開いても全ての機能は使えない。だが使えたとしても、iPhone向けにチューンされたMapsの方を使うと思う。それぐらい便利なのだ。その意味ではMapsやYouTubeのように、iPhoneのユーザーインタフェースに対応したアプリがどんどん開発されてほしいと思う。だが、もしSafariの不便さが、iPhone用のWebアプリ開発を促すための制限だとしたら、少々腑に落ちない気分である。