『稲川淳二のミステリーナイトツアー』という怪談語りツアーを、15年間続けている稲川淳二。彼のライフワークとも言えるこのツアーについて聞いた。
リハーサルなし、ネタも直前に変更ありのツアーライブ
──今年で15周年を迎える怪談語りツアーも好評ですが。
「長くやっていて嬉しいのは、ツアーを始めた時期は独身だった方が、結婚して子供を連れて怪談を聞きに来てくれたりする事ですね。親子二代で僕の怪談を聞いてくれてる(笑)。あと、ご年配の方々が毎年来てくれるのは嬉しいですね」
──やはり、怪談のお仕事が一番楽しいんですか?
「私には決意していた事があるんですよ。55歳になったら、テレビやラジオのレギュラー仕事をすべて辞めようと思っていたんです。それからは好きな怪談の仕事を中心に活動しようと思っていました。老後はね、今回のDVDに入っている『旧遊女屋』に出てくる、宿屋のヨボヨボのおじいさんみたいになりたいんです。何も知らないで訪ねて来た若い人に、食事の後とかにのんびり怪談を話す。そんなおじいさんになるのが理想なんです。とにかく怪談は私にとって楽しい仕事です。特にライブで怪談を楽しんでいただけるツアーは最高ですね。ツアーでは毎回20個ぐらいの怪談を用意してるんですが、会場の雰囲気やお客さまの表情を見て、披露するネタをその場で変更したりします。だから、リハーサルはないんです。本当の意味でライブなんです。ある時なんか、14個の怪談を用意していたのに、会場のリクエストの声を受けて、『生き人形』に急遽変更して2時間すべてその話をした事もありました」
──今年のツアーで新作は披露されるんですか?
「ツアーは毎年新しい怪談で構成してるんですよ。毎年来てくださるお客さまも多いですから、過去と同じ怪談はできないです。今年も20数本の新作怪談を用意しています」
「夏に怪談を語る」以外に、稲川淳二はどう過ごしているのだろう。普段の活動や今後の活動に関して聞いた。
注目を浴びるのが好き。いつまでもバカみたいに続けていきたい
──先ほど、冬のお話が出ましたが、夏以外の稲川さんは、どう過ごされているのでしょうか?
「僕は夏ばかり活動しているタレントという印象があるかと思いますが、他の時期は夏に語るための新作をまとめてます。執筆がほとんどですね。やっぱり準備に1年はかかっちゃうんですよ。毎年、6月下旬から9月までは1日も休みなしだし、冬にツアーをする時もあるので、1年間で休みはほとんどないですね」
──工業デザイナーとしても、大きな賞を受賞されていますが
「怪談を語ったり、テレビやラジオに出るのは、全部人前で演じる仕事でしょ。それは大好きなんです。でもそれとは別に、もうひとつの自分の顔があった方が落ち着くんですよね。デザインの仕事はそういう意味で、自分にとって必要ですね。ずっと黙って考えて、なんとか新しいデザインを形にする。そのデザインも形になって産み落とされた瞬間から古い物になってしまう。そしてまた新しいデザインをなんとか考える。その繰り返しですが、とても楽しいです」
──これからも怪談中心のタレント活動と、デザイナー活動を続けていく感じですか?
「どちらも好きなんで、辞められませんね。おまえなんかいらないよ、と言われるまでは、ひとりでも喜んでくれる人がいるうちは、いろんなことを続けていきたいと思ってます。自分の話をしたり、人に見られたり、注目を浴びるのが好きなんですよ。それで見る人が笑ったり楽しんでくれるなら、いつまででもバカみたいに続けていきたいですね」
饒舌に、精力的に怪談について語ってくれた稲川淳二。「とにかく周囲の人を楽しませる」というサービス精神豊富な姿勢は、どんな事に取り組んでいる時も変わらない。そんな稲川淳二の、「怪談に対する新しい試み」が詰まった最新DVD『稲川淳二の怨念劇場』。この夏に是非楽しんで欲しい。
「超こわい話シリーズ 稲川淳二の怨念劇場1」 |
「超こわい話シリーズ 稲川淳二の怨念劇場2」 |
稲川淳二 プロフィール
1947年8月21日生まれ 東京都出身。デザイン学校を卒業後、デザイナーとして活躍。1976年にラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティーとして出演しブレイクした後、デザイナーのほか、レポーター、お笑いタレント、俳優として、各方面で活躍する。また、1983年から怪談語りツアーを開始し、熱狂的なファンを多く獲得するなど、怪談の語り手としては不動の地位を築いている。怪談に関する著書やDVDも多数あり。1996年には「車どめ」のデザインで通産省選定グッドデザイン賞を受賞している。