とにかく嬉しそうに「怪談を語る事」を語る稲川。すべての人を魅了する稲川怪談は、どうやって生まれるのだろうか?
これまでに生まれた恐怖の怪談たちは400話以上!
──ところで、稲川さんは、オリジナルでいくつぐらいの怪談をお持ちなんですか?
「自分でも正確には把握してなかったんですが、このあいだ『それはさすがにまずいだろう』ということになって、うちのスタッフが数えたら400話から500話くらいあったらしいです。なんでこんなに曖昧な数かと言うと、怪談を語る時間の関係で、1つの話を2つに分割して別々の怪談として話していたりする場合もあって、正確な数がわからないんです。あと、新作の怪談でも、過去の怪談とオチが同じだったりする場合があって……」
──今回の作品では、『銀色の靴の女』なんて本当に怖いですね。聞いた事のない話ですし。銀色のヒールを履いた幽霊が出るという話だけでも怖いのに、毎年パーティー会場に同じ幽霊が出て、その事実を知っている人も沢山いて……。こういった稲川さんの恐ろしい怪談は、どういうプロセスで生まれるのでしょうか?
「あの話はヤバイよね……。僕の怪談ってよく誤解されるんですよ。『稲川は人から聞いた話を喋ってるだけなんだ』と。違うんです。いつも新しい怪談を話すために、怖い話を人から聞いて、その周囲の場所や人を丁寧に取材するんです。そうするとさらに色々な事実がわかってきて、余計に怖くなってくる。最初の怖い話だけじゃ、人様に語れる怪談にならないんですよね。ちゃんと最初の怖い話の背景を調べてみると、本当の怖さが見えてきて、そこからさらに別の怪談に出会うなんてこともあります」
──ただ、怖い話をすればいいというわけじゃないんですね。
「ペンだこが出来るぐらい書きまくって、取材した怪談をまとめますからね。そういえば、怪談を書くためカンヅメになってたら、こんな怖い事がありましたよ。冬場ね、ある宿に泊まって怪談の原稿をまとめてたら、疲れていつのまにか寝ちゃったの。起きたら驚いたね。自分はペンを握ったままなのに、まったく違う筆跡の意味不明の字がひとつだけ混じってるの。筆圧もまったく違うの。見たこともない知らない形の文字だから、自分が書くはずない。部屋には中から鍵がかかってるし、あれは絶対にこの世の者の仕業じゃない」
──それは怖いですね。怪談をまとめている時に、よくそんな怪奇現象があるのですか?
「いつもですよ。いきなり首を後から掴まれたり。気晴らしに外出して帰って来たら、その部屋には誰もいないはずなのに、宿の従業員が『あれ、おかしいなあ。今、部屋の中の稲川さんと襖越しに確かに会話したんですけど。いつの間に外に出たんですか?』なんて言われた事もありました。でも、こういう怖いエピソードがある時に限って、不思議と良い怪談がまとまるんですよ。何か違う世界の力が作用しているんでしょうね」
──怪談をまとめる話も、すでに怪談なんですね。ところで、ここ数年、稲川さんの影響か、「実話」という触れ込みの怪談が増えてきていますが。
「怪談やこわい話が盛り上がるのは、いいと思いますよ。でも、あまりに"作り"のある話を実録怪談として紹介するのは、良くないと思います。これ実話じゃないよな、作りこみ過ぎだよなと感じる話もありますし。幽霊に呪い殺された人の視点で語られてる実録怪談とか、ありえない話でしょ(笑)。本当の話って、そんなに複雑じゃないですよ」