日本よりも一足早く1960年代半ばには人口の大半が65歳以上となる高齢化社会を迎えたことをきっかけに、老若男女の違いや障害の有無にかかわらず誰でも過ごしやすい社会づくりを進めてきたスウェーデン。4日のセミナーでは、そうしたスウェーデンのデザイン会社ならではの視点が報告された。

ストックホルムに本社をおくデザインコンサルティング会社のERGONOMIDESIGNは、高齢者用の爪磨き補助具やスカンジナビア航空のCA(客室乗務員)が機内で使用するコーヒーポットから、生命維持装置といった医療器具まで、幅広い分野で製品のデザインをしている。同社のデザイナーであるDANIEL HOGLUND氏は、こうした製品をデザインするにあたって「ユーザー中心のデザインを追求し、成し遂げることが重要だ」と語った。

デザインコンサルティング会社ERGONOMIDESIGNの社内

ERGONOMIDESIGNのデザイナーであるDANIEL HOGLUND氏

HOGLUND氏は「デザインをする際には、デザイナーがかっこよいと思うものを追求するのではなく、ユーザーがどのように使うのか、どういった場面で製品が使われているのか、といった動作分析から解決方法を見出す人間工学的なアプローチが重要」とした。この人間工学的な視点とは、「Physical Ergonomics(身体的、物理的な動作をリサーチする人間工学)」「Congnitive Ergonomics(脳がどのように製品を理解するかをリサーチする人間工学)」「Emotional Ergonomics(製品に対して人がどういった感情を抱くのかを理解する人間工学)」の3点に集約されるという。そして、「これら3点からの視点をベースに、製品のデザインを構築していく」とのことだ。

人間工学の3つの観点

ERGONOMIDESIGNがデザインに人間工学を取り入れた歴史は、1960年代後半に遡る。社会的弱者のための公共デザインから始まり、そこから「デザインとは生活を向上させるためのものであり、デザインは人々の生活を向上させる責任を負う」という考え方が生まれた1970年代に入ると、「障害者の持つ特有の問題をデザイン的な視点から解決していく中で生まれたデザインが、健常者にとっても使い勝手の良いものだとわかってきた」(DANIEL HOGLUND氏)。このような考え方が、同社にとってその後の製品開発に関する方法論の基礎となった。現在この考え方は、具体的には一つの製品デザインの過程で「Insight(ユーザーの動作分析)」「Creative Work(デザインパターンを生み出し、テストをして最適なデザインを抽出)」「Implementation(デザインを完成させ、製造の準備を行う)」という3段階の工程に落とし込まれているという。

スカンジナビア航空のCAが機内で使うコーヒーポットの製作工程。
(写真左下)様々なパターンが試作され、実際の現場で試された
(写真右下)結果的に各々の試作品の特徴を融合して完成した

スカンジナビア航空のCAが機内で使うコーヒーポットは、持ち手に工夫が施された。コーヒーの残量によって、持ち手の掴む場所が変えられるなど、手首への負担が軽減されている

また、HOGLUND氏は「(企業の)ブランド力を高めるのは製品そのものだ。ユーザー視点でデザインし、長らく人々から愛される製品を作ることがデザインの役割」と語った。