デジタルマーケティングによるリアル店舗の変革が、小売ビジネスを強くする

奥谷氏は米国Amazonが"ネットの素晴らしい買い物体験をリアルへ"という考えのもと、無人店舗のAmazon Goやリアルな書店、スーパーを展開しているのを「Amazonはリアルの場に自社のDNAを取り入れ、ネットとリアルの融合を進めています」と紹介したうえで、チャネルシフト戦略について、(1)オンラインを基点としてオフラインに進出し、(2)顧客とのつながりを創り出すことで、(3)マーケティング要素を変革することと定義した。

「これまで消費者の検討・購入手段としてはオンラインとオフラインが対極にある関係でしたが、これからはネットで購入するためのリアルな接点としてのオフラインチャネルや、オンラインの要素を取り入れたリアルな販売手段といったチャネルシフトが生まれていきます。店舗体験は行動データに基づいた提案になり、購買履歴などのデータを活用した高度化が実現するわけです。スマホアプリの展開などデジタル接点の拡充が進んでいる現在、次にやるべきは店舗のデジタル化ではないでしょうか。ただモノを売るだけではなく、顧客時間に寄り添い、オンラインとオフラインのチャネルを融合して、どのような検討/購入/使用・消費の顧客体験を生み出すかを設計しなければならないでしょう」(奥谷氏)

奥谷氏によると「これからはフィリップ・コトラーが提唱する"マーケティングの4P"のうち、"Place(場所、チャネル)"が重要になってきます。これまでは、よいProductを作って適切なPriceを設定して最適なPromotionをすれば場所がどこであれ売れると考えてきましたが、これからの時代は、よいPlaceを作ってエンゲージメントを生み出せば、Product、Price、Promotionがよりコントローラブルになります」とのことだ。

また、米国のリアル書店のAmazon BooksがPrime会員向けに価格を差別化したり、購買データに基づいて商品のレコメンデーションをしたりといった事例を紹介し、「リアルな物販もネットのようにパーソナライズ化していくのではないでしょうか」と語った。

さらに「ネット通販は確かに成長していますが、これからの時代はリアルな店舗をサポートするデジタルをもっと推進していくべきです。EC化をしていない企業でも、店舗のデジタル化によってオンライン基点のビジネスモデル作りを推進することが、小売ビジネスをさらに強くするでしょう」と提言した。

社内のデータ統合管理における課題とデータ統合のための道筋とは

TIS デジタルインテグレーション事業部 副事業部長 岡部耕一郎氏

TIS デジタルインテグレーション事業部 副事業部長 岡部耕一郎氏

奥谷氏が提唱するマーケティングを実現するうえで前提となるのが、オンライン・オフラインのチャネルが生み出す様々なデータの統合管理だ。続いて講演したTISデジタルインテグレーション事業部の副部長である岡部耕一郎氏は、『お客様に支持され続けるためのデータ集約と活用方法』と題して、社内のデータ統合における課題と企業のデータ活用事例を紹介した。

岡部氏は、社内のデータ統合について、会員データがチャネルごとにバラバラになっている点、既存のシステムとのオンライン・オフラインを横断した連携ができない点、ログデータが散在していて一貫した顧客行動が把握できない点などを指摘し、オムニチャネル・チャネルシフトにおける推進の5つのステージについて、システムの観点から個別の課題について説明を行った。

  • オムニチャネル・チャネルシフトにおける5つのステージ

    オムニチャネル・チャネルシフトにおける5つのステージ

会員データについては「リアル、ECサイト、カタログ通販、ポイントカード、提携クレジットカードなど多種多様なデータを本格的にID統合するのはどの企業でも非常に困難。ID統合をどこでやるのか、どの深さでやるのかなど判断によって処方箋は千差万別です」と語る。たとえばオンライン・オフラインの店舗を展開するアパレル企業では、オンライン・オフラインの各店舗で生まれる販売管理のデータをCDP(カスタマーデータプラットフォーム)に統合して、マーケティングオートメーションの基盤にしているという。

  • 某アパレル企業様データ統合・管理イメージ

    某アパレル企業様データ統合・管理イメージ

既存システムの連携については、社内にデータベースが分散・乱立しており、組織の壁などもあってデータ連携が困難である点や、オンプレミスのシステムを改修するスピード感では世の中の変化に対応できない点などを指摘。"アーキテクチャの変革期"が来ており、既存のシステムからフロントエンドを切り出してクラウド系のツールに置き換え、バックエンド系については既存の基幹システムとフロントエンドの間に様々なツールのAPIを挟むことで、基幹システムを改修せずにデータ統合ができるマイクロサービスアーキテクチャを提唱した。

また、ある住宅メーカーではウェブサイトのアクセスログ、広告やマーケティングオートメーションのログ、営業担当者の接客ログにサードパーティデータなどを組み合わせて、データを統合管理しているという。

岡部氏によると、ログデータの統合に関しても「チャネルごと、システムごと、ツールごとにログデータが散財するのは必然で、1対1のマッピングを積み重ねるのには限界があります」とのことだ。そのうえでDMP、CDP、DataHubといったツールの活用は必須である点を指摘。「既存システムのなかには取扱いが難しいものもありますが、クラウド系ツールを組み合わせることでかなりのことができるようになっており、それらを連携・統合し提供できるのがTISに強み」と締めくくった。

  • 某住宅メーカー様データ統合・管理イメージ

    某住宅メーカー様データ統合・管理イメージ