ソーシャルやメッセンジャーサービスが生活に欠かせないものとなる中、生活者の情報行動に合わせてソーシャルソフトウェア市場はどう進化してきているのか。世界ではじめてエンタープライズソーシャルを開発したビートコミュニケーション代表の村井亮氏と4年連続で米Forbes誌が世界で最もイノベーティブ企業に選んだ、セールスフォース・ドットコムの関孝則氏と大川宗之氏の両氏が2014年12月1日にセールスフォースのオフィスで対談を行いました。
エンタープライズソーシャルの国内の市況について
今、企業でのエンタープライズソーシャルはまさに盛り上がりを見せています。米ウォールストリート・ジャーナルなどの報道によると来年にはフェイスブックもこの分野に進出すると言われており、世界規模でムーブメントが起きています。ガートナーやIDCでもエンタープライズソーシャルが成長しており、ソフトウェアがソーシャルウェアに置き換わっていくことを予想しています。
ビートコミュニケーション 村井亮氏:昨今、ソーシャルソフトウェア市場が大企業だけに限らず、中小企業にも拡大しています。この数年でどのような変化がありましたか?
セールスフォース関孝則氏:5年前はアメリカでも企業でSNSを果たして使うのか、という時代がありました。それが今ではトップ企業が次々社内SNSを使って成果を出し始めています。ベライゾン10万人、ネスレ30万人、ユニリーバ、バーバリーと多くの企業が使っています。企業によっては、数十万人という規模に上る場合もあり、多くはトップが入れたいと思って導入したのがきっかけになっています。
ビートコミュニケーション 村井亮氏:最近はエンタープライズソーシャルの使われ方も進化していて、メーカーなどで自社の製品開発に使っている事例も徐々に増えてきています。企画開発、営業、マーケティングなど複数の部署にまたがって数千人の従業員が同時に企業内でエンタープライズソーシャルを活用して、製品開発を行ったりマーケティング施策を考えたりしています。
セールスフォース 関孝則氏:弊社でも「新しい商品開発ができるという事例はないですか?」とよくお客様に聞かれます。そういう意識を強く持っている方もいらっしゃいます。社内活性化、コミュニケーション改善。経営課題に結びつけて考えられていますね。そこまで真面目に受け取ってくれる方は、昔は多くはありませんでした。
ビートコミュニケーション 村井亮氏:ある会社ではエンタープライズソーシャルの中に動画を組み込み、全社員がノウハウを共有しています。例えば、現場でプランナーが企画したイベントを社内SNSにアップして各支店のプランナー同志でノウハウを共有したり、レストランでシェフが料理している工程やメーカーが製品の製造工程を現場から動画をアップロードすることで、アルバイトや営業スタッフは自分達が提供しているサービスにより詳しくなり、セールストークのレベルアップをしています。
セールスフォース 大川宗之氏:アルバイトの方がストーリーを語れるということですか。シェフのナレッジを隅々まで共有しているのですね。
セールスフォース 関孝則氏:暗黙知の共有という知識を画像、映像で共有しようっていう考えで今まで会話でしか出て来なかったものを吸い上げる仕組みが益々重要になってきていますよね。
両社のエンタープライズソーシャルが成功している理由
セールスフォース 大川宗之氏:一般のお客様が考えられているのは、組織の風通しを良くして、いわゆる組織の壁を越えるという大上段の目標が設定されています。しかし大事なのは、地に足の着いた日頃の業務を、ソーシャルで行うということだと思います。
日頃の業務をソーシャルで行うためには、プロジェクト管理やSFA(Sales Force Automation)などの業務システムの仕組みとソーシャルはバラバラであってはいけなくて、画面を切り替えなくても使える必要があります。タイムラインを見ていたら、営業はこうしていたということがわかるようなシステムが大切です。
セールスフォース 関孝則氏:「ここで仕事しましょう」ということです。「仕事中につぶやいてもいいんですか?」ではなくて、日常のソーシャルで仕事をするという意識です。
ビートコミュニケーション 村井亮氏:エンタープライズ・ソーシャルネットワーク(企業内SNS)を使うと意思決定プロセスが早くなりますよね。全社員が経営者のように主体的に考えて行動するようになるので変化にも強くなり、経営者にとっては嬉しいツールなのですが、情報のスピードアップについては、たまに中間管理職がストップをかける場合もありますよね。そこの対策もポイントのような気がします。
セールスフォース 関孝則氏:自分達の仕事を変えたくない、稟議のまわし方を変えたくない等、"変えたくない"というとSNSは難しいです。メールを導入した90年代にも、こういうのが入ったら困りますとか、社長にメールを送れないようにしてくれとか、当時は何度も聞かれました。
セールスフォース 関孝則氏:どれだけ動機づけができるかが大事です。まさに変化の激しい環境では、すぐその場で反応しないといけません。エンタープライズソーシャルはまさにウォー・ルーム(War Room)です。軍隊のマネジメントも、中央集権型の「コマンド&コントロール」から、権限委譲型の「ミッションコマンド」に移行しています。事実、アメリカの軍隊のマネジメント方法はそのように変化してきています。
ビートコミュニケーション 村井亮氏:その通りです。あの湾岸戦争でも旧来型の中央集権型のコマンド&コントロールでは犠牲者が増えてしまうため、現場へ権限移譲するミッションコマンドに移行したということです。今、大企業も中央集権型のマネジメントでは外部のスピードの変化に追い付かなくなってきています。
各企業がウォー・ルームを設けて、スピーディーに変化する外部環境に適応していかなければならない時代が来ています。いま、外部環境の変化は恐ろしいスピードで加速し、経営環境は常に変動しています。企業は危機にさらされているので社内での意思決定や情報伝達もスピードアップしなければなりません。
例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは病院に納入している機器に問題が発生した事例があります。その時はコミュニティ機能を使って製品納入先の各病院の反応を一カ所に集中しました。担当営業スタッフが集めた情報をすべて書き込んだのです。担当本部長はそれに基づいて判断をし、指示を出すことで事なきを得ました。これは一種のウォー・ルーム的な使い方だと思っています。
セールスフォース 関孝則氏:今の文化では対応できない。今、エンタープライズソーシャルを導入しなければ、変化に耐えられないでしょう。ということなのかもしれません。
ビートコミュニケーション 村井亮氏:弊社で問い合わせが多いケースが、元々大手企業が、五年後、十年後の将来を見据えてなんとかしなきゃいけないよね。と思っていたところで、弊社の御客様の導入事例を見て、直感的にお問い合せをくれる方が多いですね。「もともと社内SNSという考えは無かったけど、事例を見てこれだ!と思いました」という感じで問い合わせがよく来ます。
人間や組織の法則研究で有名な矢野和男さんの書籍「データの見えざる手」によると、従業員に「知り合いの知り合い」が多い会社では、仕事での遅延が減るなど現場での問題解決能力が高く、仕事がうまくいきやすいことが述べられていますが、まさにSNSのメリットを証明していると言えるでしょう。