組織内の利害関係に縛られない「第三者」の介入も効果的

利害の対立を解消し、組織横断を実現していく際に効果的な別の方法としては「社外の人材」を活用したDX推進組織の構築が挙げられます。全社最適にあたっては、各組織からの独立性や客観性など、既存の利害関係から独立した役割が求められるためであり、「DXレポート2.2 概要版」でも推奨されています。

そうした役割を求めて、Ridgelinezに支援依頼を受けるケースも増えています。実際に「(推進担当者が)自組織の利益を優先している」といった批判が出て、組織横断的な活動が立ちゆかなくなってしまうことは多いようです。

第13回と第14回(「情報システム部門」の“トランスフォーメーション”が企業のDXを加速する)でも、情シス部門が業務視点を持つことの重要性を指摘しましたが、活動に新しい視点を加えたり、組織間の“橋渡し役”になってもらったりといった目的で、社外の人材を積極的に活用することも選択肢に加えましょう。

ここでは、企業変革を目的にRidgelinezが「社外メンバー」として参画した事例を紹介します。そのお客様はSaaSビジネスを展開するベンチャー企業でした。同社では、営業、CS(カスタマーサポート)、サービスの開発担当者の間で「視点」がズレており、それが原因で様々な問題が起こっていました。

営業は「新規顧客の獲得」、CSは「既存顧客の要望実現」、開発担当者は「サービスリリース」を自分たちの役割と認識して、それぞれ最優先で取り組んでいました。そのため、利害が対立する状況が増え、次第に組織間のコミュニケーションもおろそかにされていきました。

その結果、事業が市場や顧客の変化に対応できなくなり、業務にも支障が生じました。一部の部門では、処理できないほど膨大な量のタスクが蓄積され、サービス提供の遅延や品質低下が生じたり、退職者が増加したりといった問題が起こりました。経営層は現場に関わる機会が少なく、社内の状況把握や対処ができていない状態でした。問題への対応策が見つからないまま、企業全体の利益も伸び悩んでいました。

Ridgelinezでは、この組織の課題を特定するために「組織間の連携強化」を目的としたアセスメントを実施しました。そこから、同社では担当者やチームごとのプロセスで業務が回されており、進捗の把握や品質の統制ができていないことが見えてきました。

対応策として、まず組織としての「あるべき姿」を描き、その姿を実現するための具体的なロードマップを策定したうえで、それに準じて標準プロセスの策定や運用等を実施できるよう支援を行いました。

同社には過去の「成功体験」があったため、これまでうまくいっていたやり方を見直す際には現場からの強い抵抗がありました。しかし、経営層も巻き込みながら時間をかけて、標準化したプロセスを組織へ定着させることに成功しました。

DX時代には経営陣にも「目利き力」が必要

DXが企業戦略と強く結びついた全社的な取り組みとなり、「既存ビジネスの付加価値向上」や「新規デジタルビジネスの創出」といった「本来の目的」が達成されることで生まれるビジネスインパクトは計り知れません。しかし、その過程で直面する課題を乗り越えるためには、中長期的な視点で粘り強く変革に取り組む必要があります。

前出のRidgelinezの調査でも「5年以上企業変革/DXに取り組んでいるが、Level.5に達していない企業」が挙げた課題の上位には「強いリーダーシップの不足」と「企業変革・DX推進できる組織構造になっていない(機能していない)」が含まれています(図3)。

  • 図3:企業変革/DXの取り組み期間×推進課題 出典:Ridgelinez

今回は「企業変革・DX推進できる組織構造」を作り上げていくためには、推進担当者の「意識」を変えて組織横断的な取り組みにしていくことと、デジタル領域に知見のある経営層が「強いリーダーシップ」を発揮して現場の意思決定に関わることが重要であることを示しました。

本連載のタイトルである「テクノロジー&プロセスの目利き力」は、現場の推進担当者や情シス担当者だけでなく、DX時代の「経営層」にも求められるスキルです。

DX本来の目的やそのための課題解決を先送りにして短期的な成果を求めることは、数年後のビジネスに大きな負の影響を与えます。自社の取り組みを定期的に評価し、もし「DXが正しい目的地に向かうことができていない」と感じるのであれば、進む方向を大きく変える決断が必要です。それは経営層がやるべきことであり、同時に経営層にしかできないことなのです。

著者:松浦 幹典
Ridgelinez株式会社 Consultant