前回は、多くの企業で古いIT資産を新しいものへ置き換えていく「モダナイゼーション」が困難になっていることと、その背景について、いくつかの事例をもとに考察しました。
モダナイゼーションが進まない大きな理由としては、既存の業務とビジネスが密接に結びついており、かつ、長い稼働期間の中でシステムに実装された「業務仕様」のブラックボックス化が進んでいることが挙げられます。
「システムがどんな処理をしているかは分からないが、とりあえず業務に支障はない」という状況が長く放置されることで、いざ、モダナイゼーションに着手しようにも「どこからどう進めればいいのか見当がつかない」という事態を招きます。
併せて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を視野にモダナイゼーションへ取り組む場合には、現行の業務を変えずにシステムのみを新しい環境に移す「マイグレーション」ではなく、業務の整理と見直しを含めた「リアーキテクト」を進めるべきであると述べました。
しかし、自社が先述したような状況にある場合は、どこに突破口を見いだせばよいのでしょうか。今回は、そうした企業が「リアーキテクト」を進めるための手法について、実際のコンサルティング事例をもとに説明します。
「5つのステップ」でリアーキテクトへの道筋を描く
リアーキテクトは、全体の方針を策定し、現状システムを俯瞰・整理し、システム統廃合を検討し、各システムをどうモダナイゼーションするかの移行分類を検討し、人や組織などのリスキリングを計画するといった道筋を経て実現されます。
リアーキテクトにあたり、何から始めるべきか分からない場合は、「方針の策定」から始めましょう。本来、“アーキテクチャ”とは、設計思想と、その思想に基づいて構築されたシステムの“論理的構造”のことを指します。つまり、全体の方針(思想)を柱として構造を見直すことが「リアーキテクト」の第一歩です。
ここでは、ある製造業(A社)でのモダナイゼーション事例に基づいて、その進め方を「5つのステップ」に分けて見ていきます。
ステップ1:全体方針を策定する
まずは、企業として「何のためにモダナイゼーションを行うのか」を全体の方針として策定します。「市場環境の変化へ迅速に対応するため」など、表現はできるだけ具体的なものにして、ステークホルダー間で共有しておきます。
リアーキテクトを進めるうえで起こりがちな問題の一つが、さまざまなステークホルダーが意見を主張し、取り組みが迷走してしまうケースです。主張の内容としては「自部門の業務プロセスを変えたくない」「責任範囲の変更は受け入れられない」といったものが多くなります。
こうした各論の主張と調整が多くなると、モダナイゼーションのスピード感が損なわれます。そこで、議論が紛糾した際に、本筋へ立ち返るための「全体方針」が必要になるのです。なお、ここで主張される各論については、無視するのではなく、後述する「リスキリング計画」などの中で調整や対応を行います。
A社の事例では、従来、四半期ごとのタイミングでシステム更改を検討することになっていました。そのため、最優先で取り組みたい案件でも、承認から実現までには最低3カ月を要し、結果として、市場環境の変化に対応できず、ビジネス機会を逃すケースが多くなっていました。また、業務部門の要求ごとにシステムの個別最適が図られており、作業効率とコスト効率が悪化していました。
こうした背景から、A社では全体方針には「ビジネス環境の変化に迅速に対応できるようにする」「情報システムの全体最適によるコスト最適化を図る」を掲げました。
ステップ2:現状のシステムを俯瞰し、整理する
モダナイゼーションの対象となるシステムは、すべてを一律の形式で移行するのではなく、各システムに求められる業務特性に応じて、最適な移行形態を選定します。そのために、システム全体を俯瞰し、整理する必要があります。
A社の事例では、まずは現状のシステムがどのように構成されているかを、オンプレやクラウド(IaaS/PaaS/SaaS)といった形態ごとに、図として整理しました。その後、それぞれのシステムについて、市場環境や経営戦略の変化から受ける影響度、変化に伴う改修の必要性といった観点で検討し、並行して、そのシステムが扱う業務自体が定型化可能なものかどうかについても考えました。
これらの検討を経たうえで、各システムが、将来的に自社ビジネスの源泉となる「競争領域」を担うシステムなのか、バックオフィス業務を支える「非競争領域」を担うものなのかの観点を加えて、マッピングを行いました。