先日、オンラインカンファレンス「NetApp INSIGHT Japan」を開催したNetApp。本稿ではキーノートセッションのゲストスピーカーとして登場した台湾のIT担当大臣 政務委員のオードリー・タン氏の話をお伝えする。まずは、同氏の講演を整理したうえで、ネットアップ 代表執行役員社長の中島シハブ・ドゥグラ氏との一問一答の内容を紹介する。

「デジタルソーシャルイノベーション」の重要性

冒頭、タン氏は「素早く」「公平に」「楽しく」の3本柱からなるデジタルソーシャルイノベーションの重要性について述べ、それぞれ台湾での出来事を交えながら説明した。

素早くは集合知を指し、公開審査に値すると思う関心事を市民が公開の場で報告して、自分への影響を確認できるものだ。例えば、2019年12月31日に中国・武漢の李医師による「武漢の海鮮市場で新型SARSが7件発症」という内部告発を台湾の投稿サイト「PTT」に同国の若い医師が投稿し、翌日の2020年1月1日に台湾は武漢から到着する乗客全員の検疫を開始した。

タン氏は「政府が新たな感染症に関する市民の行動を信頼しただけでなく、市民同士が信頼し合い発言や報道の自由を享受していました」と述べる。

台湾のIT担当大臣 政務委員のオードリー・タン氏

台湾のIT担当大臣 政務委員のオードリー・タン氏

公平については、台湾の中央感染症指揮センター(CCC)の記者会見を一例として挙げ、CCCの本部長である陳時中氏は新型コロナウイルスの感染拡大以降、毎日会見を配信し、市民からのアイデアを取り上げていた。そのなかで、昨年4月に男児からホットラインに「クラスメイトの男子は、全員青色のマスクを着けているのに配給されたマスクはピンクだから登校したくない」という相談があった。

相談を受けたCCCは、翌日にスタッフ全員がピンク色のマスクを着用して記者会見を実施した。その様子を同氏は「ジェンダー平等と連帯をアピールしたことに加え、対策本部に改善要望があれば誰でも提案ができることを知ってもらう機会になりました」と振り返る。

また、タン氏も2012年の設立時から参画する社会課題の解決を目指す台湾のシビックテックコミュニティ「g0v(ガヴゼロ、零時政府)」の取り組みについても触れられた。例えば、LASSというコミュニティはPM2.5や大気汚染の測定に取り組んでおり、NB IoT、0Gネットワークなどの技術を用いて可視化している。

台湾では昨年1月に政府が同国で生産されるマスクを買い上げ、同2月から実名制販売を導入し、マスクの配給が開始されたときに多くの人たちと連携して、在庫をリアルタイムに表示するツールを100個以上作り、30秒ごとに更新するなど、オープンAPI化している。

この取り組みについて、タン氏は「市民を信頼してオープンデータを提供し、農村部で薬局に到着したら閉店していたなどの情報があれば変更や修正も提案してもらえます。また、マスクを事前に注文して近隣のコンビニエンスストアに配達してもらう仕組みが昨年4月ごろから広がり、当初問題となっていた薬局での行列は完全に解決できました」と話す。

さらに、ソーシャルイノベーションの最後の柱「楽しく」も重要だと同氏は話す。同国では、新型コロナウイルスの感染が拡大していた期間中に、何度も髪にパーマをかけると100万台湾ドルの罰金が科される、という噂が拡散されたという。

タン氏は「このような噂に対して、蘇貞昌(スー・チェンチャン)行政院長は『自分はハゲだけれどパーマをかけた人を罰することはない』とコメントを付けたイラストを示しました。イラストには表示義務として『週に何度もパーマをかけると、お財布だけでなく髪にも良くありません。行政院長を見れば、どうなるか分かるでしょう』とも書いています。このようにユーモアな発想で社会に還元されたのです」と語っていた。

以上のようにタン氏は「デジタルソーシャルイノベーション」について説明している。これらを踏まえ、次ページの一問一答に目を通してもらえれば幸いだ。非常に示唆に富んだ内容となっている。