「Facebookは日本で伸び悩んでいるのか?」

この質問に対してFacebook Japan 代表取締役の長谷川 普氏は、「毎月の数字(MAU)の上下は気にしていないし、着実に数字が伸びていることが大切。機能強化やコミュニティをエンパワーし、ユーザーの投稿頻度や内容といった質的な部分を高めていくことが大切だと思う」と回答した。(関連記事 : Facebook Japan代表、メルカリ山田氏、元LINE森川氏、それぞれの立場から見た「グローバル進出」)

Facebook Japan 代表取締役 長谷川 普氏

他SNS比で停滞期に?

Facebook Japanは半年に1回程度のペースでMAU(月間アクティブユーザー数)を発表。昨年4月の時点では2500万、今年2月の時点では2700万ユーザーがFacebookを毎月利用しているという(グローバルは19.7億人)。

一方で性質は大きく異なるものの、競合となるTwitterは2015年末にMAUで3500万アカウント、2016年11月には4000万アカウントと母数が大きい上にその数を大きく伸ばしている。また当然ながら、国内における最大のSNSはLINE。6000万を超えるアカウントはもはやインフラに準ずるレベルまで浸透しており、準国産としてそこに異論を挟む人間はいない。

もちろん、Facebookには「Instagram」がある。グローバルで7億ユーザーを抱え、日本でもMAUで1600万ユーザーを数える。昨年4月公表の数字が1200万であることから、Facebookを超える400万の実増数を達成しており、その勢いは確実に超えている。

広告はよりリッチに

SNSは本質的に、ユーザーの利用頻度を上げ、満足度を高めることで同一フィードに配信する広告の収益性を高めていく。今回の記者説明会でも長谷川氏は、FacebookやInstagramで、従来の「テキスト」が「ビジュアル(写真・画像)」へ、そしてビデオへと、よりリッチコンテンツにシフトしていると説明している。

1日に80億回再生されるFacebook上の動画コンテンツは、通常の投稿だけでなくライブ配信も利用が拡大しているといい、Facebookの開発者イベント「F8」でも、全セッションでライブ機能を活用した。同様に、InstagramやMessengerアプリでも動画が好調で、24時間でコンテンツが消失する「Instagram Stories」や「Messenger Day」も利用者が拡大。Instagram Storiesは、昨年末にデイリーユーザーが2億人を突破した。

もちろんこれは、グローバルで成長を続けるFacebookの強さの証であるものの、冒頭で長谷川氏が説明した「質的な部分を高めていく」という文脈にも沿う。リッチコンテンツへのシフトが進めば、Facebookが提供するカルーセルやキャンパスといった、より上位の広告製品にユーザーの関心が高まり、パイが増えずとも収益性が上がることへと繋がる。また日本では、他のモバイルアプリへの広告配信が行えるオーディエンスネットワークも2100万人存在しており、C ChannelやGunosyなどのユーザーにリーチできる。

前述の広告フォーマットについても、インフィード広告をタップした直下に商品リンクを多数配置できる「コレクション」を現在準備している。「広告を見てユーザーが『欲しいな』という感情を抱いたときに、購買行動まで密接に結び付けられる」(長谷川氏)。

また、Instagram Stories内の広告も、日本でテスト導入がスタートしており、デリッシュキッチンがメッセージ配信を行っている。「Facebookの動画再生数は1日80億回、コンテンツのリッチ化に広告はどう対応すべきか?」でも触れたが、長谷川氏は「必ずしも新しいフォーマットが良いわけではなく、ノウハウが大事」としており、スマートフォンの小さい画面の中でいかにユーザーの心を動かすかが大切と説く。

その事例として、日産とメルカリ、資生堂を長谷川氏は挙げた。3社に共通するポイントは「マスから個別最適化」。例えば日産は、自動車ブランド「セレナ」のフルモデルチェンジに合わせて、1700種類以上のバリエーションを持つクリエイティブを制作。従来はマス広告のために1、2パターンの制作していたものを、Facebookの細やかな属性にあわせて出し分けする「面白い事例」(長谷川氏)。

また、メルカリは日本発のフリマアプリとして米国でも人気を博しているが、こちらはFacebookとInstagramを活用して出し分けを行い、国内においてはインストール単価が13%、米国では15%減少したという。最後の資生堂は、ブランド構築がもはやテレビだけではリーチできないことから、CM後にアンケート調査を組み合わせ、テレビでアプローチできなかった層に対してFacebookとInstagram広告を打つことでブランド認知率の向上を図った。

日本らしさ、はどこに?

Facebookは単なる利用者数の伸び悩み以外にも、リスキーブランドの「生活意識調査」によると若年層がFacebookを積極的に利用しないという指摘がある。これについて長谷川氏は、昨年8月に行われた総務省の調査データを引き合いに「3年前から利用率は伸長している」と語る。ただ、このデータも10代に限ってみると平成24年が19.4%、25年が22.3%、26年が25%、27年が23.0%と、母数が140件程度であることを考慮すると「停滞している」という状況にある。

総務省調査データ資料より。10代の利用率は停滞している

そこで重要となるのが「グローバルにおける日本法人」という考え方だと長谷川氏。

iモードから始まるモバイル先進国というポジションが、Facebookの機能開発に貢献していると語る。2016年1月に、「いいね」以外の感情アクションが可能になった「リアクションズ」は、「Emoji」に着想を得たものであったという。また、東日本大震災をきっかけに「安否確認機能」を実装しており、こちらはテロ発生時などでも利用されている。

ただ、これらをもって「日本におけるFacebook」が現時点でベストな状態であるとは言い難いだろう。LINEというクローズドコミュニケーション、そしてTwitterという匿名性の高いSNSが日本人の性に合っていると言えばそれまでだが、これらが諸外国で伸び悩みを見せているようにお互いが欠けている点を学ぶことでさらに伸長できる可能性はあるはずだ。