ドローンのポテンシャル - メーカーやキャリア、ユーザー企業はこう見る

「ドローンを活用しよう」という話題が聞かれる昨今、波に乗り遅れまいと、さまざまな企業が活用を目指して実証実験を行っています。しかし、「波に乗る」ことが目的になっていないでしょうか?

法規制や現在のドローンのスペック、将来的な可能性、自社事業へのインパクトなど、本当にその事業にドローンが必要なのか、精査できているのでしょうか?

実際にドローンをサービス内で活用しているセコムとコマツ、LTEを活用したセルラードローンの実現を目指す携帯キャリア3社、実際にドローンを提供するDJIとACSL、業界団体のJUIDA、担当官庁の一つである国土交通省に、石川 温氏と中山 智氏が話を伺いました。

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「ニッポンのドローンビジネスに未来はあるのか」というテーマで、メーカーやキャリア、業界団体、役所などを幅広く取材してきた。

思い返せば2015年11月、安倍総理が「早ければ3年以内にドローンを使った荷物配送を可能とすることを目指す」と発言。さらに同12月に改正航空法が施行されたことで、2016年はドローンビジネスの元年になったように思う(関連記事 : 実は寛容な日本の「ドローン法制」、国交省が語るその将来像とは?)。

しかし、国が旗振りして法整備を進め、各プレイヤーの鼻息は荒くなったものの、まだまだ「手探り」といった感は否めない。やはり、日本においてはドローンを飛ばす環境が海外とは大きく異なる。また、技術面においても課題は山積みだ。

本当に「配達ドローン」は必要か?

人口が密集する都心部においては現在、飛行禁止エリアとなっているが、申請さえ出せばドローンの飛行は可能だ。だが都心部であれば、わざわざドローンを使って荷物輸送をする必要はない。宅配便のお兄さんが台車で運んでくれば、それで事足りるからだ。

マンションの周辺を何百機ものドローンが飛び交うという光景は、今のところ想像しにくいだろう。ドローンにおける荷物輸送で、もっとも可能性があるのは山間部や離島。だが、現状のドローンでは運べるものの大きさやサイズに限界があり、ごくごく限られた小さなものしか輸送できないのが課題だ。現状、バッテリーで20分程度しか飛べないことを考えると、往復できる距離は自ずと限られてきてしまう。

もちろん、エンジンを採用したドローンや、充電ポートをあちらこちらに設置することで、飛距離を大幅に伸ばすことは可能であり、その他技術的な進化によって、これらの問題はいずれ解決するだろう。

NTTドコモが福岡で行った離島配達の実証実験の様子

ただ本当の問題は、仮に離島の住民から買い物代行を受けた場合、「注文を受ける人」「荷物をドローンまで運ぶ人」「ドローンを操縦する人」「離島で荷物を受け取る人」といったように、数多くの人の手を介す必要が出てきてしまう点にある。当然、人手を使えば相応のコストが発生する。これらのコストを負担してまでも、急いで買わなくてはならないものは何なのか、ということを離島に住む人は考える必要があるだろう(関連記事 : NTTドコモが実証実験から学んだ「セルラードローンの課題」)。

アメリカではAmazonで購入したものが自宅に届く際、仮に不在であっても持ち帰るということはしない。玄関の前に置きっ放しにして配達員は帰ってしまう。アメリカでは、アマゾンの取扱量がどれほど増えようとも「再配達問題」が発生しない。なぜなら、荷物は置きっ放しで、再配達しないという選択肢があるからだ。

もしアメリカでドローンによる荷物配達が行われるならば「荷物を広めの庭に落下させて配達完了」という風になるのではないか。一方で日本は庭が狭く、さらに本人に直接、手渡ししないことには配達が完了しない。荷物を受け取りたい人の上にドローンがやってきて、ロープでゆっくりと荷物を下に下ろしていくといった、まどろっこしい対応が求められそうだ(関連記事 : ACSL 野波氏が考える「宅配ドローンに必要な技術」)。

これらのことから、アメリカでは「ドローン配達」というビジネスは充分に成り立つだろうが、日本では技術的な課題を解決できても、コストや採算的に、果たしてビジネスとして見合うものなのか、じっくりと検討する必要がありそうだ。

LTE+ドローンが切り開く将来性

ドローンにLTE回線などを搭載することで、目視外飛行を実現させようという取り組みが動き出している。NTTドコモが「セルラードローン」、KDDIが「スマートドローン」という名称を使って実証実験や業務提携を拡大している点は、まさにキャリアがドローンを「スマホの次」ととらえているからだろう。

ただ、目視外飛行をするということは、それだけ遠くに飛ぶということなので、当然のことながら最終的にバッテリー問題へと行き着いてしまう。1時間でも飛行できれば見えないところまで飛んでいくだけに、ドローンにLTEモジュール(回線)が載り、カメラなどの映像を見ながら操縦するというのも必要となってくるはずだ。ただ現状では長くて30分足らずの飛行時間と言うことを考えると、必ずしもLTE回線が載っていなくても十分なように思える。自律飛行で、事足りてしまうだろう。

KDDIはLTEモジュールを組み込んだ「スマートドローン」を構想している

もしバッテリー問題が解決して、どこまでも長時間、飛ぶことができれば、LTE回線を搭載する意味が一気に出てくる。目視外飛行で遠くまで飛び、さらにリアルタイムに近い通信速度で、映像配信が行えれば、災害時などで有効に機能することだろう。

今回の取材でもっとも印象的だったのが、KDDIの松木 友明氏が語っていた「かつてiPod touchを購入し、Wi-Fiだけで通信をしていた人がいたが、iPhoneのいつでもどこでもネットにつながる利便性には勝てなかった。いまのドローンは2.4GHz帯の通信で満足しているが、LTEにつながるようになることで比較的に利便性が向上するのではないか。いずれLTEのないドローンは考えられなくなる日も来るかもしれない」という言葉だ(関連記事 : B2Bで下地作り、B2Cまでの成長描くKDDI)。

まさにiPhoneを代表とするスマホも、登場当時はバッテリーがすぐになくなることに不満を感じながら使っていたように思う。しかし、最近のスマホはバッテリー寿命が飛躍的に伸び、使い方も大きく様変わりした。いつでもどこでもネットでクラウドにつながる利便性から逃れられなくなりつつある。

ドローンの世界も同様に、技術の進化によって思いもよらない使い方が出てくるのかもしれない。まさに「バッテリー」と「セルラー通信」が今後の進化の鍵となってきそうだ。

若年層が関心を持てない環境に疑問符

ただ、心配なのが、ドローンの可能性に気がつく若者が極端に少ないという点だ。

スマートフォンやタブレットは、子どもの頃から使いこなすことで「アプリを開発しよう」「新しいネットサービスを作りたい」というプログラマーが続々と誕生している。しかしドローンに関しては、特に都心部の子どもが触れるという機会が全くない。ドローンを自分で操縦して可能性に気がつかなければ、若い人がドローンで新しいビジネスを起こそうという気づきは起きないのではないか。

ニッポンのドローンビジネスにおいて、数十年後を考えるならば、「子どもがドローンに触って、可能性を感じられる場所」を整備するというのも必要になってきそうだ(関連記事 : DJIが日本に期待する「技術力」と「農業」)。