「クラウド会計ソフト freee」をご存知だろうか? 個人事業主や従業員500名以下のSOHO/SMB、中小企業向けのクラウド会計ソフトで、2013年の提供開始からわずか3年で60万事業者(2016年11月時点)が利用している。

いわゆるスタートアップ企業の多くがB2Cサービスを志す中で、佐々木氏は自身の経験からB2Bにフォーカスし、freeeの急成長へと繋げて行った。第1回に続き、freeeの成長の振り返りと展望、B2Bクラウドサービスの未来について佐々木氏に尋ねた。

freee 代表取締役 佐々木 大輔氏

――現在は日本でのみ事業を展開されています。今後の海外展開は?

佐々木氏 : 将来的には当然、海外でもと考えていますし、マーケティング調査も始めています。ただ、税務は国によって異なるため、会計ソフトでも国ごとのカスタマイズが必要となります。でも意外と、共通項も多いんですよ。なので、海外展開の障壁は想像されているほど高くないと考えています。

――昨今「FinTech」という言葉が話題になり、FinTech企業の資金調達も相次いでいます。freeeもFinTech企業の1つとして挙げられていますが、「FinTech」についてどうお考えですか?

佐々木氏 : 広義でのFinance(金融)は「融資・投資」「決済」「財政管理」の3つがあります。一方で「◯◯Tech」とは、ユーザーが求める日常的な期待値と、ある領域における体験の現在値のギャップを埋めていこうという動きだと考えています。

こうした定義はありますけど、私たちは、FinTech企業と呼んでもらっても良いし、正直どちらでも良い(笑)。重要なことは、私たちが何をしたいか。それは、オンラインバンキングすら利用していない人が多くを占める現状を認識し、改善することです。

freeeとしては、住信SBIネット銀行とのAPI連携で「振込の自動化」という取り組みを進めています。また将来的には、freeeが「融資・投資」「決済」「財政管理」のすべてを繋げられるようなサービスへと進化することで、今までと異なるユーザーエクスペリエンスを実現していきたいですね。

日本のB2Bクラウドサービス業界は、まだまだ伸びしろがある

――スタートアップのB2Bクラウドサービスというくくりで業界を見た時、今の状態をどのようにお考えですか?

佐々木氏 : この3年ほど、状況は変わってきたと感じていますよ。それ以前は「クラウドは怖い」という感覚の人が多くいましたが、スマートフォンの普及とともにいなくなった。「PCとスマートフォンの両立」というニーズは普遍的なものなので、そのニーズを叶えるクラウドサービスを避ける理由はもはや存在しません。

ユーザーサイドはもちろん、資金調達事情も大きく変容したと思います。freeeは当初、海外のVC(Venture Capital)から資金調達したんですが、当時の日本では「クラウドサービスで上場している会社がないから評価できない」というVCがいたんです(笑)。私たちを始め、いくつかの事例が出てきたことで、B2Bクラウドサービスでも資金調達が可能となる流れができましたね。

ただ、業界としては「まだまだこれから」なんじゃないでしょうか。特に、「バックオフィス」や「マーケティング」「CRM」の分野で、挑戦できる余地があるにも関わらず、プレイヤーが出てこず、やりきれていない印象があります。

――やりきれていないと思われる理由はどこにあるのでしょう?

佐々木氏 : B2Bサービスって、B2Cと比べて提供開始当初から高い完成度が要求されるんです。顧客開拓も、B2CはWeb広告を打つだけ、口コミで広がるケースもありますが、B2Bは「営業」が欠かせないので初期投資が非常に多い。

そのためには、大型の資金調達を行い、利益が出なくても「大きなビジョンを描いて頑張りぬく」という姿勢が必要なんですが、これをやりきれる人がまだまだ少ないですね。

――先ほども少し触れていましたが、佐々木さんが注目されている領域はどこでしょう?

佐々木氏 : 最近、人事分野が盛り上がってきましたね。ただ、採用や人事は答えが1つではないと思うので、今後も色々なサービスが出てきてしかるべきだと思います。

また、営業・マーケティング分野も少ない印象です。マーケティングオートメーションのツールやSFAもあまりありません。海外では、これらの分野で「既存顧客のリテンションを上げるためのSFA」や「特殊な営業・マーケティング手法のクラウドサービス」など、専門領域特化型、ニッチ層のソリューションが多く出てきています。

――特化型のクラウドサービスは、顧客認知が難しいと思います。その壁を乗り越えるにはどういった方策が必要なのでしょうか?

佐々木氏 : 特化型のクラウドサービスであっても、潜在顧客の中には感度を高くアンテナを張っている人がいます。そうした人へのアプローチが重要ですね。freeeも、スタート当初はTwitterで話題になったんです。最初から、マーケティング活動やイベントなどで顧客を拡大することは難しいので、まずは感度の高い人に「このサービスはすごい」と言ってもらえるかどうかが重要ですね。