「クラウド会計ソフト freee」をご存知だろうか? 個人事業主や従業員500名以下のSOHO/SMB、中小企業向けのクラウド会計ソフトで、2013年の提供開始からわずか3年で60万事業者(2016年11月時点)が利用している。
いわゆるスタートアップ企業の多くがB2Cサービスを志す中で、佐々木氏は自身の経験からB2Bにフォーカスし、freeeの急成長へと繋げて行った。初回では、freeeの成長の振り返りと展望、B2Bクラウドサービスの未来について佐々木氏に尋ね、第2回以降では、佐々木氏が紹介したい「魅力あるB2Bクラウドサービス」のリレーインタビューを、佐々木氏の一言とともにお届けする。
freeeは「リアルタイム経営パートナー」に
――freeeについて、サービスを紹介してください
佐々木氏 : freeeは、スモールビジネスのバックオフィス業務をサポートするツールを提供しています。ほかの会計ソフトは「帳簿を作ること」を意識して開発されていますが、freeeでは請求書の発行や支払いの管理、経費精算をはじめとした「通常業務を行うことで、自動的に帳簿が出来上がる」ことを念頭に置いており、「帳簿をつける」という概念をユーザーがあまり意識せずに利用できるよう、開発しています。
――クラウド会計ソフトは、オンプレミスのクラウド化など、競争環境が激化している分野ですが、競合は意識されていますか?
佐々木氏 : freeeはクラウド会計ソフトの中で、最も選ばれている存在(※MM総研調べ、2016年3月時点)です。競合がどうこうというよりも、PCにインストールするパッケージソフトが、ネット上で利用するクラウドソフトへと移行することが重要であり、そこにフォーカスしています。「クラウドへ移行する」という風潮になれば、おのずとfreeeが選ばれると考えています。
――会計ソフトはあくまで「入口」かと思います。目標はどこに設定しているのでしょうか?
佐々木氏 : 私たちは、「あらゆるスモールビジネスの経理業務の自動化」を推進し、スモールビジネスの経営者が「創造的な活動にフォーカスできる」環境の実現をミッションとしています。
スモールビジネスの働き方って格好良い面もあるし、組織が大きくなりすぎないことから「効率的」という側面も持ち合わせています。freeeで創造的な活動にフォーカスできる環境を整備し、その先にあるビジネスの拡大、という社会を実現させたいんです。
特に、経理業務を含めたバックオフィス業務は、あらゆるビジネスに共通化するもの。徹底的な自動化が重要な要素です。
――freeeが急速に支持された理由の1つとして「会計事務所の後押し」があるそうですが、なぜ響いたのでしょうか?
佐々木氏 : freeeを利用して事務作業の効率化を図り、よりクリエイティブな仕事にシフトするというビジョンを持つ会計事務所が多いですね。
会計ソフト業界はもともと、「会計事務所に強いソフト」「エンドユーザーに強いソフト」に二分されていました。freeeは当初、ユーザーからの引きが強かったのですが、「会計事務所への理解を促進してほしい」という声をユーザーから多くいただいていました。そこで会計事務所への営業を強化し、今では3,300以上の会計事務所に導入いただいています。
――金融機関での利用について教えてください
佐々木氏 : ある調査によると、中小企業のオンラインバンキングの利用率は3割以下、地方銀行に至っては、1割を下回るんです。そうした状況を打破すべく、とある連携銀行では、店舗振込が「取引先・銀行の双方にとって負担になる」として、取引先にオンラインバンキングの利用を薦められています。
取引先や見込み顧客に対する業務改善コンサルティングのサービスの1つとしてfreeeが利用されていますし、企業がfreeeに蓄積された財務状況のデータ活用を許可すれば、与信の審査やモニタリングもできるようになっています。
組織の成長の壁を登るために必要なこと
――佐々木さんは創業者でもありますが、freeeを創業してから苦労したことや苦しかったことがあれば、教えてください
佐々木氏 : 組織の成長の壁をしっかりと超えていくのは大変でした。
特に会社組織として30名を超える時期が最も難しかったですね。社員数がある一定の人数を超えると、「この業務は、何のためにやっているのか?」「事業の進捗は、この進め方で問題ないのか?」といったビジョンの共有が厳しくなっていくんです。常に対話し続ける環境構築、チームワークの基本を徹底しないと、上手く回っていきません。
また、いわゆるウォーターフォール型の開発では、サービスがドキュメント(仕様書)で決まります。一方で我々は、スピード感を持ったアジャイルな開発・マーケティングが信条。1人1人が自分で物事を決定できるよう、従業員全員の価値観を可能な限りあわせていくことが重要ですね。
――具体的に、価値観の共有はどのように行ったのでしょうか?
佐々木氏 : 「価値基準」というものを設けたんです。価値基準を考える委員会を社員持ち回りで開催しているほか、毎年開催する全社合宿でも、価値基準について考える時間を必ず設けています。
後編は、11月21日に掲載します。