Q:宇宙ビジネスに携わる中で嬉しかったことは?

「いっぱいありますね、結構いっぱいあります。」

苦しかった経験から一転、事業の中で嬉しかった瞬間を尋ねると、即座に笑顔で答えが返ってきた。

  • 嬉しかった出来事を満面の笑みで語る永崎氏

    Space BDの代表として嬉しかった出来事を語る永崎氏からは、満面の笑みがこぼれていた

Space BDが宇宙業界で立ち位置を確立するに至った契機でもある、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による衛星打ち上げ・国際宇宙ステーション(ISS)利用に関する公募事業。宇宙での衛星打ち上げビジネスを開拓する同公募事業の獲得に向けた企画書づくりやプレゼンテーションについて、最初のころはすべて永崎氏自らの手で行ったという。「あの時の景色はすべて覚えている」と語るように、その成功には格別の喜びがあったそうだ。

だが、直近に行われた同様の公募などここ最近の事業獲得に向けたプロジェクトには、永崎氏はほとんど参加していないという。場合によっては最終プレゼンを含め1度も関与しないものもあったというが、それでもSpace BDはいくつもの成功を収めている。そういった成果や社員の喜ぶ光景を確認した時、永崎氏は「自分自身がプレイヤーとして成功した時とはまた違った喜びを感じる」とのこと。そして「今後はそういった喜びの形がメインになっていくと思う」と話す。

そういった変化は株主などにも伝わっているようで、ある時「Space BDを想像したとき、永崎社長だけでなく、いろいろな人の顔が頭に浮かぶようになった」と株主から語られたという。永崎氏自身も、「会社の“顔”をたくさん作っていくことが大事」と将来の同社の在り方について想像を膨らませていた。

Q:これから最も注力していく事業は何ですか?

「どれか1つに集中するのではなく、広く深く全力を尽くすこと。“すべてに注力”していくことが強みにつながると思っています。」

宇宙産業の発展に向けて、サプライチェーンの幅広い領域を捉えたビジネスを展開するSpace BD。多様な事業の中で、まずどれか注力したい分野があるのかと思い尋ねた問いだったが、意外な形の答えが返ってきた。

同社では、主力事業である宇宙への輸送をはじめ、人工衛星のバス設計のような技術面での貢献、物品を運ぶことによる宇宙のマーケティング利用、人工衛星開発のフローを活用した教育プログラムなど、宇宙産業に関わるあらゆる段階に携わっている。永崎氏によれば、「それぞれの事業では競合企業が存在していますが、これらをすべて1社で提供できるのは、世界的に見ても稀有な存在だと思います」と話し、そこに勝機を見出しているともする。

「今の宇宙産業は、何か1つに特化すれば事業が回る、といった状況ではないのが難しいところです。ただ、そういう業界だからこそ面白いし、我々はそこですべてをやるというのが特徴であり、誇りを持っている所でもあります。」

“全部やることに注力する”。一見矛盾しているようで、そこには宇宙業界だからこそ表出する価値がある。「すべてやるのって本当に大変」というのはわかっていながらも、気付けばすべてに手を抜けなくなっていたという永崎氏。現時点では多くの事業が一回りし、今後はそこで得られた知見を活用して、より良いビジネスモデルへと深化させていく段階にあるといい、さらに今後は未完成の宇宙市場に未だ多く眠るフロンティアを切り拓くことも、変わらず続けていくとのことだ。

Q:どんな仲間を求めていますか?

「自分の可能性を解き放ちたい人、人生から言い訳を無くしたい人、仕事を通じて自分を何者かにしたい“ハングリーな人”。」

問いかけからほどなくして、永崎氏の口からはスラスラと面白い形容が飛び出してきた。スムーズに言葉になるのは、彼自身が「昔の僕みたいな人」と表現するように、過去の自分と照らし合わせている部分があるからだろう。

「社長の僕が言ったことを淡々とこなす企業では、今後の宇宙市場で勝ち続けていくことはできないし、我々はすでにそんな企業ではなくなっている気がします。それよりは、Space BDという環境を使い倒して、単独で目指すよりも大きな目標を達成しようと志すくらい、個人としての活力を持っている人が活躍できる会社なんじゃないかと思います。」

これまで社員についてはキャリア採用のみを行ってきたSpace BDだが、2024年度からは新卒採用も開始するとのこと。またインターン生も日々の業務に従事しており、さまざまな入り口から同社の門を叩くことができるようになった。永崎氏はまだ見ぬ将来の仲間を想像し、微笑みながらもう1つ理想を口にした。

「極端なことを言えば、“やりすぎだ”と僕に言わせてほしい。背中を押されて動くのではなくて、自分から何かを起こそうと考え続け、突っ走っていける人を待っています。」

Q:どんな将来像を描いていますか?

「『もはや宇宙スタートアップではない、Space BDである』。そんな表現をされるような、唯一無二の会社にしたい。」

永崎氏が目指すのは、“何かみたい”になるのではなく、その“何か”になることだ。

スタートアップや大企業など、会社のタイプを形容する言葉は数多存在するが、彼はそれらを自称することで「自らレッテルを貼りつけてしまう気がする」と話す。世代やジェンダーを問わないさまざまなメンバーが所属し、1社だけではなくさまざまな企業と手を取り合って新たに“宇宙産業”を構築しようとしている今、現時点で存在している何かをゴールにするのではなく、新たな何かにならなくてはいけない。永崎氏は、「Googleを使うことが“ググる”という言葉を生んだように、“Space BDっぽい”のような形容詞が生まれるような唯一無二のモデルになりたいし、そうなれるような気がしています」と話す。

波乱万丈の日々を過ごし、Space BDの代表としても激動の日々を送った永崎氏。その経験は確かに大きな影響を与えていたようで、ある日、同社のメンバーから「宣材写真を撮り直しませんか?」と提案されたという。

「今使っている写真はどこか幼く見えます。今の方がいい顔になっている気がしますよ?」

当時宣材写真として使っていたのは、リーダーとして思い悩んだ前出の2年間よりも前に撮影したものだった。苦悩の時期を経験する前と後では、表情に表れる深みに変化を生んでいたのかもしれない。

宇宙を一大産業へと変えていく真っただ中にあるSpace BD。たった1社で成し遂げることはあまりにも難しい壮大なプロジェクトだが、同社には数々のプレイヤーたちをつなぐ力があり、新たな動きを生み出すエネルギーがある。かつては自らが先陣を切り、宇宙の可能性を広げようと模索していた永崎氏も、今はいち企業のリーダーとして、多くの仲間と共に新たなスタンダードを作り出そうとしている。

「宇宙をサステナブルな産業として確立させるためには、『ありがとう』という言葉と共に対価が支払われるようなモデルでなくてはいけないと思っています。そういった意味でも、結局のところ“人のつながり”を大事にして、多くの人を巻き込みながら社会を盛り上げていきたいですね。」

Space BDが自身の人生以上に長く続く企業になることを目指す永崎氏にとって、創業7年目の今はまだまだ初期段階。宇宙業界の伝統ある老舗になった時に、果たして同社はどんな役割を担っているのか、期待は宇宙のように限りなく広がるばかりだ。