CX調査とEX調査の相関分析の標準的なステップ

このように2つの調査を組み合わせる分析の標準的なステップは、以下のようにまとめられます。

  1. CX調査とEX調査において、それぞれのKPIに対するキードライバーを把握
  2. CX調査とEX調査のKPIの間にどの程度の相関があるかを確認(両方がバランスよく高水準にあるグループの取り組みを全社レベルで共有)
  3. CX調査のドライバー項目(特にKPIに対するキードライバー)との相関が強いEX調査のドライバー項目を特定
  4. ステップ3で特定されたEX調査のドライバー項目のうち、従業員の多くがポジティブに捉えていない項目を優先的な改善領域としてアクションを実行
  5. 次回のCX調査におけるKPI、EX調査におけるKPIで改善をチェック

上記のような視点で従業員と顧客という主体が異なる体験の関係を分析するため、クアルトリクスでは「CrossXM」を開発・提供しています。従来、データによる検証が難しかったCXとEXの関係を定量的に分析することを実現するツールです。そして、既に興味深い分析結果を得ることができています。

例えば、グローバル規模で事業を展開するテクノロジー・プラットフォーム企業では、顧客訪問を担当する現場のサービスエンジニアが「優れた顧客サービスを提供した」と認められた場合、1回の訪問で顧客の問題を解決する可能性が9倍高くなるという分析結果を得ました。

同社は優れた顧客サービスを表彰する制度を拡充することで、従業員が「認められた」と感じる機会を強化しました。そして、従業員の意欲を高めると同時に、より効率的・効果的な顧客対応を実現させました。

また、高齢者向け住宅供給サービスを展開する企業では、上司が現場の従業員のウェルビーイングを気遣っているほど、従業員が担当する住居の入居者も高い満足を得ていることが判明しました。

そのほか、自動車の販売会社における調査では、自分自身に求められている業績を明確に理解していること、顧客の課題が迅速に解決されることが、リピーターを増やす結果につながっているという結果が示されました。

顧客体験と従業員体験の相関分析を有効にするためのポイント

最後に、これまで論じてきた顧客体験と従業員体験の相関分析を有効なものとするための留意点をまとめておきます。

注目する指標を明確にする

CX調査、EX調査で使用するKPIやそのドライバー項目は、さまざまなです。どのタイプの相関分析を行うにしても、フォーカスすべきテーマを絞り込み、最終的に顧客の体験を改善するために従業員が何をすべきかを明確にする情報とすることが重要です。

CXとEXをつなぐ組織文化を醸成する

いかに示唆に富む分析結果を得たとしても、従業員が担当業務を通して顧客の体験を向上させることに価値を感じ、自らそうした活動を推進しようとしなければ、具体的な成果を期待することはできません。経営陣を中心とする管理職層、従業員のいずれも腹落ちするようなメッセージと共に「体験管理」を重視する組織文化を醸成する推進者になる必要があります。

組織横断で関係者が連携する運営体制を構築する

既述の通り、顧客体験と従業員体験は異なる組織が担当している中で、そうした関係者(ステークホルダー)が組織の壁を越えて協力し合わない限り、良い活動になるはずがありません。設問設計にしても、調査結果の分析にしても、アクションの検討にしても、情報を共有して議論することで、初めて全社にとって意味のある活動になります。

一度きりの分析で終わらせない

一度の分析結果だけでは、課題抽出の妥当性やアクションの成果を判断することは難しいです。次の調査で変化を測定するとともに、上記の組織間の連携や文化の浸透、事業戦略への反映など、中長期的に地道な活動を継続することで、将来の大きな成果につながると考えられます。

まずは、手元にあるCX調査、EX調査のデータを活用してパイロット的な分析を始めてみるのも良いでしょう。別々の調査として扱われていたデータから、これまでにはなかった示唆が得られるはずです。本格的な活動につなげるために、プロジェクトチームを立ち上げて、なるべく多くの関係者を巻き込みながら、全体像を一歩ずつ固めていくことが、現実的なステップになります。

著者プロフィール


市川 幹人 クアルトリクス合同会社 EX ソリューションストラテジー シニアディレクター

シンガポール国立大学経営大学院修了。住友銀行(現三井住友銀行)、三菱総合研究所を経て、ヘイコンサルティンググループ(現コーン・フェリー・ジャパン)およびウイリス・タワーズワトソンにおいて、従業員意識調査チームの統轄責任者を歴任。さまざまな業界のリーディング企業に対し、プロジェクト全体の企画から、調査設計、実査準備・運営、集計分析、結果報告、アクションプラン策定のためのワークショップ運営まで、豊富な経験を有する。 クアルトリクスでは、従業員エクスペリエンス分野推進のシニアディレクターを務める。