野原: 建設産業が就業人口確保のためにさまざまな取り組みをされているお話を伺ってきました。

私が感じたのは、DXにより便利で負担が少ない仕事環境を作ることが進んでいる一方、働く人々が心地よく働ける環境作りが特に重要だということです。実際には、建設産業で働く人たちはどのようなモチベーションを持って仕事をしているのでしょうか。村上会長はどのようにお考えですか?

村上: おっしゃる通り、心地よく働ける環境づくり、ひいてはやりがいや楽しさを感じられることが大切だと思っています。

ある現場で、職人に建物外の一カ所に集まってもらい、全ての柱の鉄筋を組み続けてもらったことがありました。流れ作業で組んだ鉄筋をクレーンで運んでいたのですが、鉄筋職人が口をそろえて「楽しくない」と言い出したんです。現場は、ある県内の大規模なショッピングセンターでした。「こんな広いところで俺は作るんだ」と思ってきたのに、実際の仕事場は駐車場の片隅。

業務効率だけで見れば圧倒的に改善したのですが、職人たちのモチベーションは大きく下がってしまいました。そこの現場では最後までやり方を変えずに作業を続けてもらったのですが、想いを残せるような場所を用意する大切さを感じた出来事でしたね。

野原: なるほど。モチベーションを大切にする職人がいる一方で、十分なお給料をもらえれば文句がないという人もいると思います。これから若い方を建設産業に迎えるにあたり、給料が高くなれば人は集まりやすくなるのでしょうか。

村上: どちらかといえば、今の方は逆にやりがいを求める方が多いのではないでしょうか。

弊社の若手社員を見ていても、給料以上に仕事に対する想いを大切にしているメンバーが多いように思えます。ニュースなどでは「若い人は仕事に対するモチベーションがない」という話題を耳にすることもありますが、私はそうは思っていません。自分たちの仕事が社会に与える影響を考えながら働いている若手は多いですし、多くの方が自分がやりたい仕事に対するイメージを持っていると思います。

野原: 建設産業にはさまざまな職種がありますので、働いているうちに自分が進みたい道を見つける人も多そうですね。先ほどの鉄筋の話もそうですが、ポイントは組み合わせだと思います。全部が単純作業になったら、それは仕事としてつまらない。できれば単純なものはロボットや機械を使い、付加価値が高い仕事を人間に与えていく。付加価値が高い仕事なので、その分高く給料が取れる、そういうふうにうまく仕事の中身を変えていけると解決するのではないでしょうか。

村上: 建設RXコンソーシアムの紹介ビデオの中で、職人さんがロボットを相棒として使っている部分があるのですが、将来は、職人さんが歩くとロボットがついてきて、重たい物を持ち上げてくれたりする。逆に、ロボットが画像を映しながら、現地で若い人の教育をできるようになるとかね。

ロボットが相棒になると、例えば先述した駐車場なら、鉄筋はロボットが組む。ただし、ロボットが組んでいる分の配筋検査は人間がやるとか。今は過渡期で、効率化を追求しなければならないことは間違いないのですが、ただ効率化を目指せば、皆さんのやりがいが犠牲になるかもしれません。そうではなく、やりがいのある、あるいは人にしかできない作業を人間が担当する、それ以外の効率化できる作業はロボットや機械に任すべきだと思います。ロボットなら、やりがいを求めたり不満を言ったりもしないでしょうから。

野原: ロボットを扱うロボットオペレーターという職種にすれば、やりたい人がいるでしょう。

村上: ある鉄骨屋さんに聞いたのですが、工場で鉄骨の溶接をロボットにやらせるため、専門のロボットオペレーターを雇ったそうです。

そこは、ロボット溶接をするというラインと、昔ながらの職人さんが担当する手溶接でしかできない難しい仕事があります。その職人さんの働きぶりを見たロボットオペレーターが、ある日自分も手溶接をやりたいと言い出して、溶接資格の勉強を始めたんですよ。

野原: 働き方にもいろいろ選択肢を持てますね。その方は手溶接の職人を目指しましたが、オペレーターに充実感を感じる方も多いと思います。

村上: そうですね。そういう意味では働く選択肢はいろいろある産業ですし、常にそれぞれの働き方にニーズがあります。

例えば、設計施工の建物では、設計の段階で、ロボットで対応する範囲と手作業が必要な範囲を切り分けることも考えられます。先ほど触れたように、8割の施工はロボットと人の手を混在させながら作っていける現場でしょうから、どちらか一方だけがあればよいということにはなりません。オペレーターの道を極めたい人は操作技術を身につけてもらい、職人になりたい人は匠の隣で技を学んでほしいですね。

野原: 余談ですが、宮大工のような匠の技が必要な現場であっても、その技術が必要な仕事と、そうでない仕事とが切り分けられていないので、入職2年目の人も、30年目の人も基本的に同じ仕事をやりますよね。そこをちゃんと切り分けできれば、面白くなるんじゃないかなと思うんですよね。

村上: われわれは設計施工でやることも結構多いので、おっしゃるように設計段階から切り分けを考えておかないといけない。設計が決まってから、「これは職人ができるね」とか「これはロボットができる」ではなくて、設計段階で、「こういう設計にしておけば、ここはロボットでもできる」「これはどう考えてもロボットには無理だから匠に入ってもらう」と。

若い人はその匠の横に立って、匠の技を見とけという。このようにすることで、設計段階からの範囲の切り分けが考えられるようになるかもしれません。

野原: ところで、先ほどお話に出た、「現場がデジタル化していないと、道具だけあっても使えない」という話に個人的には危機感を感じたのですが。上場ゼネコンでそうだとすると、中小の建設会社はどうなるのでしょう。中小がやっている仕事を全部大きな会社で見られるかというと多分そんなことはできない。こうした中小の建設会社をサポートするような取り組みも必要ではないかと思うんですが。

村上: そうですね。必要でしょう。ただ今は、そこまでフォローできていません。

野原: 本当は国の協力も必要ではないでしょうか。例えば、BIMでの建築確認(※6)ができるようになるのも、一番進んでいる国々からは10年、15年ほど遅れてしまっています。

村上: 要望もないところから、国が自ら進んでやってくれるということはありません。今回の建設RXコンソーシアムのDXへの取り組みに対しても、国は「必要性を具体的に示してください」というところから始まりました。今は示せているので、国土交通省とか、経済産業省とか、みんな好意的にしていただいています。

いずれにしても、何か動かなければ、何も始まりません。自分たちからこういうことを作ります、こうやりますと言ってはじめて、補助金の話もできるようになるのです。

野原: 補助金の話は多いのですが、実際にはお金があっても、ソフトがあっても、それだけでは本格的な変化は起こりにくいですよね。やはり使い方や目的を定めてから動かないと。

そういう意味でも、制度や規制のあり方は重要だと思います。私たちも建設RXコンソーシアムの会員になったので、色々な議論に参加させていただきたいと思います。

村上: 分科会のリーダーになってもらうとかね。

野原: ありがとうございます。最後に、若い人たちが心配せずに参加できる建設産業の用意は着々と進んでいると考えてよいでしょうか。

村上: そう言えるように頑張っていきたいですね。建設産業に入りたい、入ったばかりというような若い人たちが楽しめる環境は、これからも私たちおじさんが作っていきますので、心置きなく挑戦してほしいと思います。

  本連載は、『建設DXで未来を変える』(マイナビ出版)の内容を一部抜粋したものです。
書名:建設DXで未来を変える
著者:野原弘輔
書籍:1100円
電子版:1100円
四六版:248ページ
ISBN:978-4-8399-86261
発売日:2024年09月13日