スターシップ宇宙船も再突入にほぼ成功
一方、スーパー・ヘヴィと分離したスターシップ宇宙船も、順調に飛行を続け、計画どおり離昇から約8分後に、6基あるエンジンを停止した。
これにより宇宙船は、地球のまわりを回る軌道に乗るか乗らないかというぎりぎりのサブオービタル飛行に入った。少し専門的に言うと、遠地点は約212kmである一方、近地点は地球の地面の中に入り込んでいるという軌道だった。そのため、地球を完全に一周することはなく、自然にインド洋上で再突入するようになっていた。
本来、エンジンをもう少し長く燃焼していれば、完全に地球を回る軌道に入ることはできる。ただ、その場合、地球に帰還する際にはエンジンを再着火して逆噴射する必要があり、もしトラブルなどで再着火できないと巨大な宇宙ごみになってしまう。そのため、あえてこのような飛行経路を取ることで、何もしなくても地球に帰還できるようにしたのである。
また、前述のように宇宙船も発射台に帰還するようになっているものの、今回はあくまで試験のため、インド洋上に着水することになっていた。
宇宙船は慣性飛行中、正常な姿勢を保ち続けた。やがて高度を徐々に下げ、離昇から約46分後、高度100kmを割り、大気圏への再突入を開始した。
前回の4回目の飛行試験では、再突入中に宇宙船のタイルが何枚も剥がれ、フラップ(小さな翼)の付け根部分は穴が開くほど大きく損傷した。そこでスペースXは、今回の機体に、フラップの付け根部分の耐熱システムを強化したり、耐熱タイルの下にアブレーション(融除材)を追加したりといった改良を加えた。
再突入中、いくつかの耐熱タイルが剥がれたように見えたものの、それでも前回ほど損傷することなく持ちこたえ、濃密な大気の中を順調に降下していった。
離昇から約1時間5分23秒後、宇宙船のエンジンが再着火し、フラップを折り畳んだのとほぼ同時に、機体は「バックフリップ」し、水平姿勢から垂直姿勢になった。そして離昇から約1時間5分42秒後、海面に着水した。しばらくは海面に浮いていたものの、やがて爆発した。
着水から爆発までの一連の様子は、あらかじめ待機していた船から撮影された。これはすなわち、予定していた場所に、ほぼピンポイントで着水できたことを示している。
さらなる改良、早速の6回目の飛行試験
この成功は、スターシップの開発が着実に進んでいることを明確に示すものとなった。そう遠くないうちに、人工衛星を載せて飛ぶようになり、数年以内には人を乗せて飛び、そして月や火星に行く日も来るかもしれない。
開発が始まってから10年足らず、エンジンが止まったり爆発したりした飛行試験から1年足らずで、スペースXはこれほどのことを成し遂げた。
もちろん、課題はまだ多い。たとえば、箸で捕まえるという方法が本当に最適かは議論の余地があるだろう。しかし、スペースXの強みは、実際にやってみたことで、その長所も短所も知ることができたという点にある。改良が必要なら改良し、使い物にならないようならまた別の方法を考える――スペースXの開発のスピード感なら、どういう選択肢を取るにしてもすぐに対処できるだろう。
また、スターシップ宇宙船の耐熱システムについても、まだ改善の余地はあろう。ただ、今回の改良により一定の改善は見られたこと、そして今後回収まで成功し、さらなる分析やそれをもとにした改良ができれば、完成に近づく可能性は高いだろう。
そして、スペースXは早くも、11月18日に6回目の飛行試験(FT-6)の実施を計画している。
6回目の飛行試験は、FT-5とほぼ同じ飛行経路で飛ぶ。そのため、米国連邦航空局(FAA)からの再審査や再認可が不要なため、わずか1か月で実現できるのだという。
この飛行では、ブースターはFT-5と同じく発射台で捕まえる。すなわち、今回の捕獲成功がまぐれではないことを証明することが目的である。また、細かな点ではブースターのハードウェアを改良し、推進システムに冗長性を加えたほか、主要構造の強化、キャッチ成功後にブースターから推進剤を排出するまでの時間の短縮といった改良を施したという。
一方、スターシップ宇宙船がサブオービタルで飛行し、インド洋上に着水するのも同じだが、FT-6では宇宙空間を飛行中にエンジンの再着火試験を行う。無事に成功すれば、一度地球を完全に回る軌道に入ったうえで、軌道から離脱して帰還する飛行が可能であることが実証される。
また、新しい耐熱材料の試験も行う。前述のように、宇宙船も将来的には発射台に帰還させてキャッチするため、そのハードウェアを取り付ける部分に、この新しい耐熱材料を使うことを計画しているという。
さらに、降下の最終段階では、意図的に高い迎え角で飛行し、フラップによる制御の限界を試験し、将来の着陸プロファイルに関するデータを取得するとしている。
打ち上げは現時点で、日本時間2024年11月19日7時00分(米中部標準時18日16時00分)に予定されている。今回の飛行試験と約半日ずれているのは、宇宙船が日中にインド洋に再突入できるようし、カメラなどによる光学的な観測をしやすくするためだという。
なお、2024年のスターシップの飛行試験は、これで終わりだという。ただ、来年早々にも7回目の飛行試験が予定されており、さらに大幅な改良を施した新型の「スターシップ2」のデビュー戦となる。スターシップ2は、再設計した前方フラップ、より大きな推進剤タンク、新型の耐熱タイルと二次熱保護層などを特徴とし、スペースXが目指すスターシップの理想像――人類の火星移住を実現するための移民船により近づく。
また、地球を回る軌道への投入や、衛星を放出しての軌道投入をはじめ、そして軌道上で2機のスターシップ宇宙船をドッキングさせた状態で推進薬の移送する試験なども行われる予定となっている。
来年は今年以上に、スターシップが飛び、そして帰ってくる光景が見られるかもしれない。そして、いつの間にかそれが当たり前の、日常の光景になっているかもしれない。火星移住という目標を掲げる同社にとって、それはまさに「うまい飯なら箸をおかぬ」ことだろう。
参考文献
・Starship's fifth Flight Test - SpaceX - Launches
・Starship's Sixth Flight Test - SpaceX - Launches