ローバーに搭載されるペイロードにも注目
ミッション2には、同社の欧州法人であるispace EUROPEが開発した「TENACIOUS」(テネシアス)ローバーが搭載される。今回公開されたランダーには、TENACIOUSのフライトモデルも搭載されており、一緒に見ることができた。
ランダー側には、鉄棒のような“コ”の字型の展開機構を搭載。TENACIOUSは、上面の中央でこの展開機構と繋がっている。月面に着陸後は、展開機構を反対側に回転させ、さらにアームも伸ばしてなるべく地表に近づけてから、吊り下げられたTENACIOUSを分離、月面に投下する仕組みだ。
TENACIOUSの後方にはスコップが搭載されており、月面でレゴリスを採取。その所有権を米国航空宇宙局(NASA)に譲渡するミッションを行う。地球に持ち帰るサンプルリターンミッションではないため、物理的な意味は何もないが、これは今後活発化すると考えられる月資源商取引のスキームそのものを実証するという狙いがある。
ミッション2に搭載されるペイロードとしては、このローバーを含め、これまでに以下の5つが公表されていた。
- 高砂熱学工業の月面用水電解装置
- ユーグレナの藻類培養実験モジュール
- 台湾国立中央大学の深宇宙放射線プローブ
- バンダイナムコ研究所のGOI宇宙世紀憲章プレート
- ispace EUROPEのTENACIOUSローバー
今回、最後の6つめのペイロードとして、「ムーンハウス」を搭載することが発表された。これは、スウェーデンを拠点とするアーティストのミカエル・ゲンバーグ氏のプロジェクトで、月面に赤い小さな家を建てるという構想。ムーンハウスはTENACIOUSの前方に搭載され、月面に展開後、写真撮影を行う予定だ。
ムーンハウスは、幅110mm、高さ86mm、奥行き64mmという手のひらに乗るサイズ。屋根部分がTENACIOUSに繋がっており、月面で固定を解除して投下する仕組みだ。
月面にこの小さな家を建てるためには、まずランダーが着陸に成功し、さらにローバーを投下して月面走行にも成功する必要がある。可愛らしい見た目とは裏腹に、難易度としてはかなり激辛なミッションとなるが、撮影まで成功すれば、歴史に残るような印象的な1枚になるかもしれない。
ぜひ“ちゃんとした姿勢”での着陸成功を
もしispaceのミッション1が成功していれば、日本初・民間初の月面着陸となるはずだったが、今年に入ってから、日本初はJAXAの「SLIM」が、民間初は米Intuitive Machinesの「Nova-C」が達成している。ただ、SLIMは逆立ち、Nova-Cは転倒しており、完璧ではなかった。日本初・民間初の「正しい姿勢での月面着陸」はまだ残っている。
同社代表取締役CEOの袴田武史氏は以前より、「最初のグループにいることは重要だが、一番にはこだわっていない」と述べている。同社が目指すのは月輸送ビジネスの確立であって、一番乗りすることではないので、これは完全に本心なのだろうが、外野の宇宙ファンとしては、そのあたりも楽しみつつ、RESILIENCEの着陸成功を期待したいと思う。