今後、AIをどのように活用していく予定でしょうか?

マーチン氏:AIを使ってデータを解釈すれば、より効率よく検索できたり、正しい情報が引き出せる。やり方としてはChatGPTを使う、大規模言語モデルを使う、他の生成AIを使うなど、さまざまなことが考えられるが、AIの使い方は、それにとどまらない。例えば、特定のデータを使ってAIに学習させることで、データどうしのつながりやデザインの詳細なデータを紐づけて理解できるようになる。そうすると、リッチなトレーサビリティモデルが構築でき、デザイン面で仕様を変更した際に、どこで、どれくらいの影響があるのかをより深く理解できるようになる。

また、企業が製造している製品は複雑化しており、複雑なプロダクトになればなるほど変動性も高くなってくる。変動性とは、例えば異なるコンフィギュレーションが必要になるとか、製品の使い方が変わってくるといったことだ。こういった変化に関しても、AIでどういったことが起こってくるのか、起こり得るのかということを特定していけるので、その情報をもとに設計時点から「このパーツをこういうふうに組み合わせていこう」というような意思決定ができる。

さらに、非構造化データの取り込みができる点がある。基本的に、発注元から要件が来るときには、それがWord文書であったり、PDFであったり、Excelであったりする。それをAIで構造化された要件文書に変えることで、デジタルスレッドの最初の糸口にすることができる。

今年の1月、竹中工務店との協業を発表しましたが、この狙いは何でしょうか?

久次氏:ビルを建てる際には施主がいて、施主が設計事務所にデザインを依頼し、設計事務所の提案を受けて、施工会社としてのゼネコンに依頼する。ゼネコンは、そこから竣工図面を作って建具を発注し、最終的に施主に渡して、メンテナンスしながらビルの運営を行う。ただ、これがすべて違うプレイヤーでデータシステムを構築しているので、データが流通していない。自動車を作っている会社は、企画する人、設計する人、プロジェクトマネジメントする人、作る人、販売する人が同じ会社の中なので、共通データベースを見て効率化が図れるが、建物を作るときは、自分たちには自分たちのシステムがありといった形で、異なるシステムを持っている。そのため、昔ながらのバイク便で青焼きを渡すといったやりとりになっている。そこで、ゼネコンが主体になって、クラウド上に共通データベースを持ち、コンカレントエンジニアリング(複数の工程を同時に進めること)を実現していこうというのが竹中工務店さんの狙いだ。

竹中工務店さんが考えているのは、BIMをPLMで管理できるのかという点。建築業界はBIM以外にたくさんデジタルデータがあるので、それらの関連性を管理して、要求仕様が変わったら、図面はどう変えればいいのか、耐震性をどう強化していくのかといった関連性をデータベース化して、関係者に公開しようとしている。

Arasは「Aras Innovator SaaS」というクラウド環境を提供していますが、将来的にはオンプレ環境をこちらに寄せていくつもりなのでしょうか?

マーチン氏:SaaS上のソリューションがマーケットニーズとして高くなっているため、SaaSの提供を開始した。今後新たな契約を結ぶ顧客は、移行が可能であればSaaSを推奨していく。一方で国防省や原発関係の人は、SaaSへの移行ができないので、オンプレ環境で使い続けていく。オンプレ環境をなくすことはない。選択の自由を持ってもらっている。

久次氏:Aras Innovator SaaSの環境はAzure上にあり、データベースはSQL Serverとなっている。Azure上できちんとチューニングして運用できれば、オンプレよりも性能が出るという意味では、同じコストを払うならSaaSを勧めるという流れになる。