目標を超えるDX人財を育成

人財育成を開始してから1年半が経過した現在、目標の2割を超える448名のDX人財が育成されている。これは、当初想定した数の約2倍だという。

同社はアプリ開発ツールとしてkintoneを利用しており、アプリの数は849に上る。その内訳は45%がマスター系、台帳管理が18%、工程の実績登録が15%、ワークフローが12%だ。

kintoneでアプリを作成している人は事業部で140名ほどいるが、47%の人は休眠状態だという。アプリ作成数が5~20(45%)はDX人財、アプリ作成数20個以上の7%がエバンジェリストと捉えている。

  • kintoneによるアプリ開発状況(出典:京セラ)

    kintoneによるアプリ開発状況(出典:京セラ)

つまり、休眠状態の47%はDX人財とはいえず、一見育成が無駄だったように思える。しかし、木下氏は「考えてみてください。どの会社にも辞める人、組織が変わる人はいるでしょう。さらに、昇進してkintoneに取り組む時間がない人もいます。こういう人たちが出るたびにDX人財を補充していると、改善する人ばかりになり、現場で働く人がいなくなるので、歯止めをかけています」と語った。

そして、同社では「いつでも代われるサブメンバーが47%いる」と捉えている。「こんなに強い組織はないと思います。こうした環境を目指していました。DX人財はアクティブユーザーとして20%いるべきであり、これを常に20%維持するのが私のミッションだと思っています」と、木下氏は述べた。

エバンジェリストの1年間の教育として、何を行ったのか?

講演の後半では、サイボウズの青野社長との対談によって、京セラのDX人財育成プロジェクトを深掘りした。

  • サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏(右)との対談で人財育成をさらに深掘り

    サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏(右)との対談で人財育成をさらに深掘り

現場の人財を1年間預かるということに対して、現場の反対はなかったのかという青野氏の質問に、木下氏は次のように答えた。

「現場トップのビジョンを実現するために必要なDXを現場に落とし込む、現場の課題を基に必要なDX施策をリーダーに上程する、1年後に現場にとってのメリットがたくさんあることを伝えて説得しました」(木下氏)

また、DXのための予算を獲得することは難しくなかったのかという問いについては、「20%のアクティブなユーザーを作ります。こうした人を外から連れてこようと思ったら、何億円もかかります。その2分の1でやり切りますといって予算を獲得しました」と、木下氏は回答した。

京セラのDX人財育成で最も気になるのは、エバンジェリストの1年間の教育内容だ。青野氏がこの点を聞くと、木下氏は、次のような内容の教育を行ったと説明した。

最初の2カ月は、外部講師による研修を毎日受けさせたという。「IT経験のない人にITがどういうものかを分かってもらわなければいけないので、まずは自信をつけるための2カ月がありました」(木下氏)

次に、彼らが現場で解決したい課題に向け、木下氏が示した簡単なシステム概要図をベースに、システム構築を行った。そして、システムができたあと、真の意味のDXとは何かを検討してもらったという。

「業務改善を目的としているので、システムが出来上がってもそれほど大きな変化はないです。そのため、『これは本当にあなたのやるべき仕事なのか』『もっとマクロで考えたら、なぜこんな仕事をしなくてはいけないのか』『全体像を見たとき、この仕事はどういう位置づけなのか』を考えてもらいました。そして、あなただったらそれをするために、どういったツールを選定して、どういった機能を実装していくのかという話をしました」(木下氏)

最後に青野氏が、今後チャレンジしたいことを聞くと、木下氏は次のように述べ、講演を終えた。

「少子高齢化という社会問題をどのように解決していくべきか。今までの働き方の延長線では無理があると思います。人がやるべき仕事と機械にさせる仕事という業務の切り分けと、機械でやるべき仕事に対して、どのように人が監視していくべきか。人を中心とした考え方を精密に実装していくことで、京セラの5年先のものづくりを考えていきたいと思います」(木下氏)