米宇宙企業スペースXは2024年3月14日、開発中の巨大宇宙船「スターシップ」の3度目の飛行試験を実施した。

今回も宇宙からの帰還までは果たせなかったものの、初めて地球を回る軌道の一歩手前まで到達し、さらに宇宙空間でいくつかの技術実証にも挑んだ。

まだ課題は多いものの、同社が目指す月、そして火星への飛行に向け、また一歩前進した。そして早くも、次の飛行試験の準備が進んでいる。

  • スターベースから飛び立ったスターシップIFT-3

    スターベースから飛び立ったスターシップIFT-3 (C) SpaceX

スターシップとこれまでの飛行試験

スターシップ(Starship)はスペースXが開発中の宇宙輸送システムで、人間や物資などを、地球周回軌道や月、火星、さらにその先へ運ぶことを目指している。

全長121m、直径は9mで、打ち上げ時の質量5000tという巨体を特徴とする。また、機体すべてを飛行後に着陸して回収し、再使用することができ、飛行機のように運用することで、劇的な打ち上げコストの低減と打ち上げ頻度の向上を目指している。

打ち上げ能力は、機体すべてを回収する場合には地球低軌道に150t、使い捨てる場合には250tを誇り、人類史上最も強力なロケットとなる。その性能を活かし、人間や衛星、探査機、貨物などを地球周回軌道、月、火星、さらにその先へ運ぶことができるほか、地球上のどこへでも1時間以内に移動できる極超音速旅客機としても使用できる。

スペースXでは、現行の「ファルコン9」に代わる次世代の主力ロケットとして活用することを目指しているほか、米国航空宇宙局(NASA)が主導する国際有人月探査計画「アルテミス」で、宇宙飛行士が月に着陸する際に乗る月着陸船としても使用され、2026年に予定されている「アルテミスIII」と2029年の「アルテミスIV」で使用されることが決まっている。

スターシップは、第1段の「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」ブースターと、第2段の「スターシップ」宇宙船の、大きく2つの機体から構成されている。スターシップ宇宙船にはいくつかの構成があり、大きな衛星を積んだり、小さな衛星を大量に積んだり、100人の乗客を乗せたりでき、さらに宇宙空間で別のスターシップ宇宙船に推進剤を補給するためのタンカー仕様もある。

スーパー・ヘヴィ、スターシップ宇宙船はともに、「ラプター」というロケットエンジンで飛ぶ。ラプターは、通常よりもさらに低温にした液化メタンと液体酸素を推進剤として使うエンジンで、スーパー・ヘヴィには33基、スターシップ宇宙船にも6基を装備する。

2023年4月には、スーパー・ヘヴィとスターシップ宇宙船を組み合わせた状態で、初めて宇宙へ打ち上げる飛行試験「IFT-1 (Integrated Flight Test 1)」に臨んだ。しかし、飛行中にラプター・エンジンが複数停止したり、スーパー・ヘヴィとスターシップ宇宙船との分離に失敗したり、発射台が大きく損傷したりと、多くの課題が残る結果に終わった。

これを受け、分離方法に「ホット・ステージング」と呼ばれる、スーパー・ヘヴィのエンジンがまだ燃焼中に、スターシップ宇宙船のエンジンに点火し、その勢いで分離する仕組みを採用したり、発射台にも補強や改良が加えられたりといった対策が施された。

2023年11月18日には、2度目の飛行試験であるIFT-2が行われ、上昇中にはすべてのラプターが正常に燃焼し、ホット・ステージングによる分離も成功した。最終的に、スーパー・ヘヴィもスターシップも飛行中に爆発するという結末に終わったものの、IFT-1よりも明らかな進歩が見られ、同社は「多くの重要なマイルストーンを達成し、試験としては成功」とした。

そして、続く3度目の試験飛行IFT-3に向け、スターシップにはさらなる改良が施された。

たとえば、スターシップ宇宙船のラプターには新たに電動式推力ベクトル制御システムが搭載され、コスト低減やメンテナンス性向上、火災などのリスク低減が図られた。打ち上げ前の推進薬の充填作業も、スピード向上のための改善が行われた。

また、今後の運用に向け、宇宙空間でペイロード・ドアを開閉させる実証や、船内のタンクの推進薬を別のタンクへ移送する技術実証、宇宙空間でスターシップ宇宙船のラプターを再着火する技術実証など、新たに追加の試験項目も設定された。ペイロード・ドア(お菓子のペッツに似ていることから、別名「ペッツ・ディスペンサー」とも呼ばれる)の開閉は、スターシップを使って衛星などを打ち上げる際に必要となる技術である。

推進薬の移送は、アルテミス計画などで地球周回軌道を離れ月などへ飛行する際にとって必要となる技術である。ラプターの再着火も、月へ向かったり、また地球に帰還したりする際の軌道変更に必要な技術である。

  • 打ち上げを待つスターシップIFT-3

    打ち上げを待つスターシップIFT-3 (C) SpaceX