プラットフォーマーだからできるAI活用支援

さて、2023年はChatGPTの登場により、AIが大きく進展する年となった。ITベンダー各社のAIにおける取り組みも加速した。レッドハットはAIに対し、どのようなアプローチをとっているのだろうか。

三浦氏は2つのアプローチがあると話す。1つは「AIを支えるプラットフォームの拡充」だ。 例えば、昨年の年次イベント「Red Hat Summit」では、「Red Hat OpenShift AI」が発表された。「OpenShift AI」は、AI/MLモデルの作成、およびAIアプリケーションの実行のための標準化された基盤を提供する。

「OpenShiftの上でLLMのカスタマイズや推論環境を提供し、お客様ごとに最適化されたAIソリューションの作成を支援していきます」と話す三浦氏。

もう一つのアプローチは「自社の製品に対するAIの組み込み」だ。三浦氏は「AIの活用をエッジまで広げていきたいと考えています。エッジまで含めてAIの活用をサポートできるのはレッドハットの強みです。世の中のAIの広がりをプラットフォームとテクノロジーで支援していきたいです」と、三浦氏は語る。

OpenShiftはこれまで、企業のCI/CD(Continuous Integration/Continuous Delivery)、DevOpsを支援してきたが、AIが活用されるようになると、MLOpsが必要になるという。MLOpsは機械学習(ML)と、運用(Operations)を組み合わせた造語で、MLモデルのデプロイと保守のプロセスを最適化することを目的とした一連のプラクティスを指す。レッドハットはMLOpsに関連する機能の拡充に取り組むという。

多くのソリューションベンダーがAIソリューションを提供しているが、「レッドハットの強みは、場所を選ばずにAIを使える点」と、三浦氏はいう。

さらに、AIにおいてGPUを使いたいというニーズが増えているが、GPUにかかるコストを最適化するため、オンプレミスとクラウドを組み合わせたAI活用の機運が高まっている。またデータのプライバシーやセキュリティの観点からもオンプレミスのAI活用ニーズは高く、レッドハットはこうした要望に応えていく。

GPUの利用に加えて、AIに用いるデータのセキュリティを確保する点でもオンプレミスの必要性が増大している。

このような背景から、企業においてハイブリッドクラウドが現実解となりつつあるが、「OpenShiftがあれば、開発や運用の仕方をクラウドとオンプレミスで変える必要がないので、ディベロッパーの負荷を下げることができます」と、三浦氏は胸を張る。

ディベロッパーやエンジニアを多く抱えるレッドハットだからこそ、彼らの気持ちが心底わかり、彼らの効率を上げることに期待できるという。

ヒトとしてのケイパビリティを中心としたD&Iを推進

個人的に、ジェンダーにこだわりはないが、まだまだ男性が主体であるIT業界において、三浦氏が代表取締役社長に上り詰めるまでに苦労はなかったのだろうか。

三浦氏は、「『これがやりたい』」など、強い思いがあったわけではなく、毎日楽しく働いていたら今に至りました。上司や環境にも恵まれていました」と、屈託なく語る。

ただ、「新しいチャンスをもらったら。躊躇なく取り組みます、どんな仕事も楽しめる、得な性格なんです」と三浦氏。言うは易く行うは難しで、あらゆる仕事を前向きに取り組むことは誰でもできることではない。このポジティブさが三浦氏の最大の武器なのかもしれない。

さらに、「そんなにがんばらないことも、うまくいく秘訣かもしれません。家族や仕事、自分にとって大切なことのバランスをとってきました。それを許してくれた周囲の人々と環境に感謝しています」と三浦氏はいう。

IBMは女性活用に定評があるが、三浦氏は「女性だからといって不利に働いたという経験はありませんが、特別扱いもありません。人としてケイパビリティがあるかどうかが重視されていました」と語る。

昨今、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組むことが企業にとって当たり前となりつつある。レッドハットはディベロッパーが多いことも関係しているのか、「予想以上に男性社会でした。オープンなカルチャーはあるのですが、女性や外国籍の社員にその良さを伝えきれていないように感じています」と三浦氏。

ダイバーシティ推進担当の役員も任命したが、「役員層で考えている以上に、現場の人が働きやすい環境にしていきたい」と、三浦氏はレッドハットのダイバーシティ向上に向けた意欲を見せた。

なお、女性を特別に扱うわけではなく、「あくまでも人としてのケイパビリティにフォーカスしたい」と三浦氏は語る。ここは、女性である同氏だからこそ、公平な視点で、ジェンダーにとらわれないダイバーシティを推進できるのではないだろうか。

最後に、三浦氏に今後の抱負をうかがったところ、次のような言葉が返ってきた。

「来年は、ハイブリッドクラウド、マルチクラウド、AIが進んでいくと思うので、これを支えるプラットフォーマーとして、パートナー企業と共に、伴走して、市場の活性化に貢献していきたいです」