イーロン・マスク氏率いる米宇宙企業スペースXは2023年11月18日、巨大ロケット「スターシップ」の2度目の飛行試験に挑んだ。
4月の初飛行では、離昇直後から問題が相次ぎ、宇宙にすら到達できず、発射台も大きく損傷するなど、不満足な結果に終わった。しかし今回は、計画どおりとまではいかなかったものの、機体やエンジン、発射台の完成度に明らかな、そして大きな進歩が見られた。
そしていま、3度目の飛行試験の準備も始まっている。数年のうちには年間100回の飛行を行い、月・火星への飛行に挑もうとする、人類史上最大のロケットの現状に迫る。
スターシップとは?
スターシップ(Starship)は、スペースXが人類の火星移住を目指して開発中の宇宙船である。
厳密には、機体は第1段の「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」ブースターと、第2段のスターシップ宇宙船からなり、両者の総称としてもスターシップと呼ばれる。両者を組み合わせた際の全長は120m、直径は9mで、打ち上げ時の質量は5000tもあり、地球低軌道に150t以上の打ち上げ能力をもつ、人類史上最大・最強のロケットである。
この強大な打ち上げ能力を実現するため、スーパー・ヘヴィにはロケットエンジン「ラプター」を33基、スターシップ宇宙船には6基装備する。ラプターの推進剤には、高い性能と低いコストが両立できる可能性をもち、なにより火星で現地調達できるメタンと液体酸素を使用する。
さらに、スーパー・ヘヴィもスターシップも打ち上げ後に着陸して回収し、再使用できるようになっており、ひとつの機体あたりの再使用可能回数は1000回と、飛行機並みとまではいかないまでも、これまでのロケットの常識を塗り替える数を目指す。くわえて、その仕組みも、発射塔に設置した巨大なアームで機体を挟んで捕まえるという前代未聞の技術を使う。
こうした革新的な技術により、抜本的な打ち上げコストの低減、打ち上げ頻度の向上を図っており、とくに打ち上げコストについては、マスク氏は「打ち上げ1回あたり約100万ドルを目指す」とされ、もし実現すれば現行のロケットの約100分の1という破格の安さとなり、宇宙輸送においてゲームチェンジャーとなる可能性を秘めている。
スペースXはこれまで、テキサス州の南端、メキシコとの国境に近いボカ・チカに「スターベース」という拠点を構え、スターシップの開発や試験を行ってきた。
そして今年4月20日、スーパー・ヘヴィとスターシップを組み合わせた状態で、初めて宇宙へと打ち上げる飛行試験「IFT-1 (Integrated Flight Test 1)」が行われた。
しかし、離昇の時点で早くも1~2基のエンジンが停止し、その後も飛行を続けるにつれ、他のエンジンも止まったり、爆発したように見えたりしたものもあった。最終的に8基ほどのエンジンが止まり、さらに機体の姿勢が大きく乱れ始めた。スーパー・ヘヴィとスターシップの分離もできず、最終的に離昇から約4分後、ロケットに搭載されている自動飛行停止システム (FTS、Flight Termination System)が起動し、機体は破壊された。周辺はあらかじめ立入禁止になっており、地上や海上への被害はなかった。
最高速度は時速約2000km、最高到達高度は高度39kmと、宇宙には遠く届かなかったばかりか、その後の調査で発射台が打ち上げ時の衝撃で大きく損傷していることが確認され、さらにFTSの起動も遅れたことが判明するなど、大きな課題が残る結果となった。
もっとも、スペースXにとっては、ある程度は予想していたシナリオではあった。新開発の、それも革新的なロケットが、初めての打ち上げですべてうまくいく確率は低い。また、実際に打ち上げなければわからないことも多く、スターシップほどの規模のロケットであればなおのことである。そもそも、スペースXの開発方法は、開発や試作、試験を繰り返し反復して行い、徐々に完成度を高めていくというものであり、飛行試験の位置づけや、その結果のもつ意味合いは、他のロケットとは異なる。
打ち上げ後、スペースXは「今日、私たちは宇宙船と地上システムに関して膨大な知識を得ることができました。それらは今後のスターシップの飛行を改善するために役立つでしょう」とコメントし、次の打ち上げに向けて改良を誓った。