操作の楽しみを損なわないための3分割構造クラッチレバー

小野氏によれば、Honda E-Clutchはシングルクラッチに分類されるとのこと。しかし発進・変速・停止時にはクラッチレバーの操作が必要なく、電子制御により自動でクラッチコントロールが行われる。また同様の機能を持つDCTと比較した場合には、マニュアルでのクラッチコントロールが可能な点が特徴として見られる。

  • 各クラッチタイプと操作一覧の比較イメージ

    各クラッチタイプと操作一覧の比較イメージ(提供:Honda)

新システムのクラッチ機構やトランスミッション機構は従来のものを踏襲しているものの、エンジン側のクラッチレバーは3分割構造になっており、モーター制御と手動操作がそれぞれ独立して作用するようになっているとのこと。そして基本的には、車体挙動に応じたモーターのリアルタイム制御によってクラッチコントロールが行われるが、手動でのレバー操作が行われた場合には、その手動操作がオーバーライドして車体へと反映されるとする。

またマニュアル操作の状態で走行を続ける中で、クラッチ滑りの無い状態になったり、一定の時間を満了したりといった所定の条件を満たした場合には、自動制御への復帰するとのこと。なおシステム自体のオン・オフは、ハンドルの4way セレクトスイッチで操作できるとした。

650ccの現行モデルに2024年から適用、順次拡大へ

さらに小野氏は、Honda E-Clutchでは従来のエンジン構造に大きな変更を与えることなく、クラッチアクチュエータの追加による大型化も可能な限り削減したとする。そのため、ライダーの足場スペースへの影響を最小限に抑えることに成功。また従来システムからの変更ハードルが低いため、現行製品への適応もスムーズに進むことが予想されるとする。

  • Honda E-Clutchと従来のMTとのサイズ比較

    Honda E-Clutchと従来のMTとのサイズ比較(右上)(提供:Honda)

なお新システムは、まず現行モデルのCB650R・CBR650Rへと搭載し、2024年から欧州で販売を開始する予定だという。またその後、大きく遅れることなく日本国内でも販売が開始される見込みだ。これらのモデルを選択した理由として、Hondaの坂本氏は「現在グローバルで多くの支持を得ているのに加え、エントリーからリターンまで幅広い顧客層を持つ排気量650ccの車種に適用することで、スピード感をもって市場へと波及させていくことを狙っている」と話した。

小野氏は「今まで、MTかATかにシステムを分類することで、ライダーの楽しみ方を限定してしまっていた。しかし今回、Honda E-Clutchという新技術により、これまで個々のライダーが培ってきたライディングの楽しみを変えることなく、MTの“操作する魅力”を保ったまま、さらなる高次元の走りを可能にし、ATの良さも持ち合わせることが可能になった」と、新技術の価値を強調した。