さらに、この解析で確認された1次元のLiイオン伝導経路を対象に、第一原理計算を行って、元素の分布がイオン伝導に与え得る影響を調査。従来材料と新材料それぞれの元素分布を模したモデルに対して、Liイオンが移動する際のエネルギー障壁を評価したところ、新材料のモデルでは障壁の高さが半分になることがわかり、新材料の高いイオン伝導性が理由づけられた。
現行LIBでの電極の厚膜化には、電極鋳型の作製を経る複雑なプロセスが採用されている。それに対して今回の研究では、新材料を用いることで、粉体の乾式混合というシンプルな製造プロセスによる電極の厚膜化が実現された。こういった乾式プロセスは既存の湿式プロセスに比べて、コストや安全性、環境負荷の小ささの点で利点がある。
この方法で作製した厚膜正極の充放電特性を測定したところ、厚みが1mm(容量理論値:29mAhcm-2)の電極において、理論値の90%の容量を取り出すことができたという。さらに、厚みが0.8mmの電極においては、室温25℃では理論値の100%の容量が放電可能であり、液体電解質ではイオン伝導性が低下する-30℃の低温でも70%の容量が取り出せたとしている。
研究チームは次に、開発した厚膜電極とLi金属負極を組み合わせて、厚膜型の全固体Li金属電池セルを作製。同セルは60℃において、10mAcm-2を超える大電流密度で大容量(>20mAhcm-2)が放電可能であり、電極面積あたりでみると、全固体Li金属電池では未達だった特性が得られたとする。
また、過去の文献で報告された全固体Li金属電池セルには得られる放電容量に限界があったが、今回の厚膜型では、少なくとも放電過程に限り、この限界を超えられることが示されたとのこと。研究チームによると、Li金属側の電極構造の最適化や界面改質の技術などと組み合わせて、充電過程の改善を図ることが今後の課題だという。
さらに、全固体電池を産業化する上では、電池の大型化と材料の大量供給が必要であり、材料の化学安定性をはじめ、実用化するにあたり顕在化する課題もあるという。研究チームは今後も、精密な測定と緻密な合成により、新物質の開拓と材料性能の向上を続け、材料面からの課題解決を模索するとしており、より優れたイオン伝導体の開発に努めると共に、今回の成果を土台に「高容量・高速充電・安全性・長寿命」を目指した電池開発を進めていくとしている。