今回の研究では、がん抗原を担持する担体としてEVRを用い、その効果を検証したといい、乳がん抗原「CH401ペプチド」とアジュバントの「α-GalCer」を組み込んだ「CH401/α-GalCer搭載EVR」(以下「乳がん用EVR」)を調製し、そのワクチンとしての活性を評価したとする。
研究チームは、合成された乳がん用EVRが、ワクチンマテリアルとして好ましいとされる100nm程度の集合体であること、脂質二重膜によるエンベロープ化、粒子表面へのCH401ペプチドの提示が電子顕微鏡観察で確認されたとする。それに加え、乳がん用EVRは、βアニュラスペプチドのみからなるウイルス様粒子(骨格のみ)や、周りの脂質のみからなるリポソームと比べ、格段に高い安定性を示すことも判明。さらに、EVRが免疫細胞に速やかに取り込まれることも突き止められたとしている。
続いて、今回のワクチンのうちどの成分が重要であるかを厳密に評価することを目的として、以下のV1~V5のエントリーを準備した上で、その活性が調べられた。
- V1:乳がん用EVR
- V2:CH401搭載EVR(α-GalCer無し)
- V3:CH401搭載ウイルスレプリカ(α-GalCer、エンベロープ脂質無し)
- V4:α-GalCer搭載EVR+CH401ペプチド(CH401を搭載せずに混合)
- V5:CH401/α-GalCer搭載リポソーム(内部のウイルス由来の骨格無し)
研究チームはこれらのワクチン候補をマウスに2週間おきに4回投与し、CH401に対する抗体の産生量を比較。その結果、CH401を搭載したEVR(V1・V2)で顕著に高い抗体の産生が確かめられたという。そして、脂質で覆われていないV3や、内部にウイルス由来の骨格がないV5よりも、V1・V2が格段に優れていたことは興味深い点とした。
またV1・V2により誘導された抗CH401抗体が、乳がん細胞に結合することも確認された。さらに、V1とV2を詳細に比較したところ、V2においてはアレルギー性の免疫反応が誘導されているにもかかわらず、V1においては、α-GalCerの効果でその反応を抑制できていることも解明された。このことから、抗原アジュバント搭載EVRが極めて優れたワクチン材料であることが証明されたとしている。
EVRワクチンは完全化学合成による調製が可能で、高い安全性が期待でき、そして同時に、ウイルス様の構造体を形成することで、極めて効果的な免疫反応の誘導も実現された。研究チームは、今回の抗原アジュバント搭載EVRは次世代ワクチンマテリアルだといえるとしたうえで、今後の研究を通して、がんや新興感染症に対する革新的なワクチンの創製につながることが期待されるとした。