研究チームはその後、柔らかく折り曲げが可能で、かつ高密度化が可能なLCP基板上でフェーズドアレイ無線機を実現するため、新たにアンテナと高周波伝送線路の設計を行ったという。折り目の近くに配置するアンテナは、折り目から遠いアンテナとは異なる設計を行い、パッチアンテナのサイズと給電位置を調整することで、最終的に両者が同様の特性となるように実装されたとする。また同無線機では、接続する部品と場所によって3種類の高周波伝送線路が使い分けられており、折れ曲がる部分を通る高周波伝送線路は誘電体層で挟み込むようにして構成されているという。

  • フェーズドアレイ無線機の構成。

    フェーズドアレイ無線機の構成。(出所:東工大プレスリリースPDF)

こうして試作されたフェーズドアレイ無線機は、高速通信が可能なKa帯で動作し、64素子のアンテナ素子および8チップの無線ICで構成された。LCP基板の製造はフジクラの協力のもとで行われ、2層と6層の異なる厚さを持つ高密度かつ折り曲げ可能な基板が実現されたという。

  • 試作されたKa帯64素子フェーズドアレイ無線機。

    試作されたKa帯64素子フェーズドアレイ無線機。(出所:東工大プレスリリースPDF)

試作された無線機は、OTA(Over The Air)環境での測定評価により基本特性が確認された。その際、無線ICで適切な位相シフトを各アンテナ素子に与えたところ、±50度のビームステアリングが実現され、最大で46.7dBm EIRPの出力電力が確認されたとのこと。これは衛星通信で用いられるDVB-S2Xにおける256APSK変調に対応し、最大で12Gbpsの通信速度を達成したとしている。

また基板は柔らかく折れ曲がるため、展開後のフェーズドアレイが完全な平面とはならないことを考慮し、20度までの折れ曲がりであれば無線ICで電気的に補償可能であることも実証したとする。なお同無線機の重量は、従来のリジッド基板の無線機と同じ面積で比較すると4分の1以下であり、大幅な軽量化が実現された。

研究チームによると、今回の軽量かつ柔らかな展開型フェーズドアレイ無線機による衛星の小型・軽量化は、衛星コンステレーション構築のための打ち上げコストを削減し、より安価な衛星通信サービスの提供を可能にするという。また同無線機は、誰もがどこでもネットワークに接続できる社会を実現するためのキー技術になるとした。

今後は、今回の64素子フェーズドアレイ無線機を数千素子にまで大規模化し、展開機構と組み合わせることで、超小型衛星に搭載可能な展開型フェーズドアレイ無線機の実現を目指すという。研究チームはさらに、衛星コンステレーションへの適用を目指して、展開型フェーズドアレイ無線機の宇宙実証を進めていくとしている。