プルーム微粒子は地下海から噴き出した海水の飛沫であり、この微粒子を調べることで海水の化学組成を直接的に解明することが可能だ。カッシーニに搭載されたダスト分析器は、探査機と衝突したプルーム微粒子の組成を調べる測定器であり、これまで数百個の微粒子それぞれに対して組成データが得られていたとする。
そして欧米の研究チームは、それら数百個の微粒子に対して詳細なデータ解析を実施。その結果、ナトリウム塩のほか、リン酸に富む粒子が少量ではあるが含まれていることが確認された。そして、プルーム微粒子全体に対するリン酸を含む微粒子の存在割合から、エンケラドゥスの地下海のリン酸濃度が120mmol/L~20mmol/L(1Lの水に1000分の1モル~20モル)であると見積もられたのである。
地球の海水のリン酸濃度は500nmol/L程度(1リットルの水に1000万分の5モル)であることから、エンケラドゥスの海水には、地球海水の数千倍から数万倍の高濃度でリン酸が含まれている計算になる。同時に、この異常濃集がどのような要因で起きたのかが、次なる疑問となった。
そこで日本研究チームは今回、プルームで観測されるCO2やアンモニアを含む模擬エンケラドゥス海水と、海底を構成する岩石に似た炭素質隕石の粉末を用いた反応実験を行ったとのこと。その結果、リン濃集を引き起こした要因が、アルカリ性かつ高炭酸濃度の同衛星の水環境にあることを突き止めたとする。
アルカリ性かつ高炭酸濃度の水環境では、リン酸イオンと炭酸イオンの間でカルシウムイオンの奪い合いが起きる。つまり、アルカリ性かつ高炭酸では、カルシウム炭酸塩鉱物がより安定になり、リン酸塩鉱物のカルシウムが奪われることでリン酸が溶けだし、海水中が高濃度となるという。しかも現在、エンケラドゥスや木星の氷衛星エウロパなどだけでなく、巨大ガス惑星や巨大氷惑星の衛星、冥王星、さらには「はやぶさ2」の訪れた小惑星リュウグウの母天体など、太陽系では数多くの天体が地下海を持っている(持っていた)可能性があるとされている。地下海の存在は一般的であるともいえ、つまりリン酸の濃集は、あらゆる天体で起きていることが予想されるとしている。
研究チームは今回の成果について、エンケラドゥス生命を構成する物質を具体的に予見可能にし、太陽系生命探査、地球外生命の発見のための検証可能な指針を与えるという今後の展開を持つとした。