東京工業大学(東工大)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の両者は6月15日、日欧米による探査と実験の綿密な連携によって、直径500kmほどの土星の氷衛星「エンケラドゥス」(エンケラドス、エンセラダスとも)の液体の地下海に、地球生命には必須の元素の1つであるリンが、地球海水の数千倍~数万倍という高濃度で濃集していることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東工大 国際先駆研究機構 地球生命研究所の関根康人所長/教授、同・丹秀也研究員(現・JAMSTEC 超先鋭研究開発部門 ヤング・リサーチ・フェロー)、JAMSTECの渋谷岳造主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
米国航空宇宙局(NASA)の土星周回探査機「カッシーニ」(1997年打ち上げ、2019年運用終了)は、エンケラドゥスの地下海から宇宙へと噴出する間欠泉「プルーム」の中を通過し、海水に塩分やCO2やアンモニア、複雑な有機物などが含まれることを発見した。また2015年には、東工大の関根所長が中心となり、同衛星の地下海の海底に熱水噴出孔が現存することも明らかにされている。つまりエンケラドゥスは、太陽系で地球外生命の存在が期待される屈指の天体となっている。
しかし、未解決の重要な問題も残されているという。それは、地下海に生命体を構成する元素のうち、どの種類の元素が地下海に含まれているのか、どれほどの量が存在するのかといったことが不明な点だ。海水に含まれる元素の種類によって、そこで育まれる生命を形作る構成分子が規定される。そのため、具体的な生命の構成分子が予想できなければ、次なる探査でどのような生命を想定したらよいか、どのような物質を生命発見の指標とすればよいのかがわからないままとなってしまう。
たとえば地球生命は、DNAやRNA、リン脂質、アデノシン3リン酸(ATP)など、生命活動の根幹をなす生体分子において、リンを必須元素として用いている。つまり、エンケラドゥスに地球生命に似た構成分子を持つ生命が期待できるかは、ひとえにリンの存否によるが、同衛星をはじめ、地球外の水環境にリンが高濃度で存在することが明らかにされた例はこれまで皆無だったとする。そこで研究チームは今回、同衛星のプルーム微粒子の化学組成に注目したという。